第79回 サウナ以上に愛すべき存在?!フィンランドの国民食
紀元前3000年頃にはヨーロッパに麦の農耕文化が定着していたといわれるが、小麦は北欧のような寒冷地での栽培が難しかった。そのためフィンランドでは小麦よりも低温で発芽することができ、干ばつにも強いライ麦パンが昔から食されてきたという。「小麦などほかの穀物を混ぜるものもありますが、フィンランドではライ麦の割合が50%以上のものをライ麦パンといいます」とアキさん。中でも伝統的なライ麦パンがあるといって指をさした。
「レイカレイパです」
直径18センチほどの円盤形のパンで、真ん中に穴が開いている。ライ麦100%のレイカレイパだという。さっそく購入して店の奥にあるイートインスペースでいただこうとトングで持ち上げると、パンとは思えないほどずっしりと重い。切り分けてみると表面はかたく、中はぎゅうっと目が詰まっていた。これはずっしりするわけだ。
口に入れると香ばしいライ麦の香りが漂った。ふわふわのやわらかいパンを食べ慣れている私にはなかなかの噛み応えだがじわーっと舌に乗る甘みに顔がほころぶ。しかし、甘みはすぐ酸味に変わった。いや、変わったのではなく甘みの上に酸味が覆いかぶさってきたというべきか。最初はその酸味の強さに驚いたが、噛めば噛むほど甘みと酸味が交じり合って深い旨みが広がっていく。なんだか「食べている」ということをしみじみと実感した。
「ライ麦にはパンをふっくらとさせるグルテンが少ないので、ライ麦の割合が多いほど密度が高くなってずっしりとするんです。だから適度な弾力性を持たせるためにイースト菌ではなくサワー種で発酵させます。このサワー種が独特な香りと酸味を生む。小麦粉にくらべてビタミンB群や食物繊維などの栄養素が豊富で腹持ちもいいので最近は健康食としても注目されています」
アキさんがいう。ドイツパンとの違いを聞くと「フィンランドのほうが酸味がストレートですね。ドイツパンは詳しくないけれど、ビネガーを加えたりもするようなので違いがでるのでしょう」と教えてくれた。サワー種は発酵種(天然酵母種)の一つで、主にライ麦粉あるいは小麦粉と水を混ぜてつくる。
そしてこの発酵種こそがライ麦パンをつくるハードルを上げているらしい。サワー種をつくるのに数日から2週間ほどの時間を要するのだ。さらに元種は生地にサワー種を加えて何時間も発酵させなければならない。元種は一部残して酵母を生かしながら保存し、発酵種として次に利用する。つまりとても手間がかかるのである。
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