最終回 神奈川いちょう団地でベトナム料理を食べ歩き

いちょう団地には20年ほど住んでいたというタン・ハーさん
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 フォーはベトナムと国境を接する中国南部の米の麺を使った料理「牛肉粉」が由来とも、牛肉と野菜を煮込んだ旧宗主国フランスのポトフの影響を受けているともいわれる。鶏肉を入れる「フォー・ガー」などもあるけれど、牛肉が人気なのはルーツにあるのかな。いずれにしても食べられるようになったのはほんの100年ほど前のことだというのに、いまや海外でも有名なベトナム料理なのだからおもしろい。

 それにしても次から次へとお客さんが入ってくる。私のように噂を聞きつけてやってきた日本人もいるが、多くはベトナムを中心としたインドシナ出身の方々のようだ。店内の様子を眺めていると、隣に座るおかあさんが食べている料理が目に留まった。淡い緑色で四角いかたちに切られたもち米のような……いったいあれはなんだ?

「バインチュンというお餅。ベトナムのお正月に欠かせないものよ。日本でもお正月にお餅を食べるでしょ。ベトナムも同じね」

 おかあさんが教えてくれた。父親が日本人、母親がベトナム人でベトナム生まれ、週に2回はタン・ハーに来るとういう常連さんだ。お餅というが、よくよく聞くと豚バラ肉と緑豆をもち米で包み、ゾンというクズウコン科の葉やバナナの葉でくるんで蒸した料理で、ちまきに近い。

「バインチュンを食べると幸福になるのよ」とおかあさん。お正月の前になると各家庭でバインチュンをつくって先祖にお供えをし、お正月にみんなでいただくのが習慣なのだという。

 言い伝えによると紀元前、ベトナムにあったとされるバンラン国のフン王が、王子たちに一番珍しくて美味しい食べ物を探した者を後継者にすると告げた。王子たちは世界中を探し回るが、一人の王子だけ、神様のお告げ通りにバインチュンと丸いお餅のバインザイをつくって王に捧げた。バインチュンは大地を、バインザイは天を意味する。王はとても喜び、その王子を後継者とした。以来、バインチュンとバインザイは天地の調和を表し、幸福を象徴するものとして新年のお供え物になったという。

バインチュンは豚肉、緑豆、もち米が3層になっている。「大根と一緒に食べると美味しいよ」とタンさん
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