【番外編】フィンランドの森の宝石 クラウドベリーのデザート

 昔々あるところに、それはおいしいベリーがありました。でも、そのベリーを採りに行くには、恐ろしい覚悟が必要だったのです――。

 そんな昔話の語り口が頭の中を流れたのは、フィンランド大使館のイベントにて。飲んでいたリキュールに使われているこの国ならではのベリーについて、参事官のマルクス・コッコさんが、大きなジェスチャーを交えながら話し始めたときだ。名前は「クラウドベリー」(フィンランド語では、ラッカやヒッラと呼ばれる)。主に北フィンランド(中部以北を指す)に自生しているオレンジ色のベリーだ。小さな丸い実が集まったような形をしており、多年草で地面近くに実をつける。

自然界の宝石のようなクラウドベリーの実。Hannu Laatunen for Visit Finland
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「おいしいベリーだけど、これを採りに行くときは大変なんです。旬は夏なんだけど沼地に生える植物なので、周囲は蚊がものすごいんですよ」。フィンランドではとても人気があるという、オレンジ色に光るリキュールはとろりと甘く少し杏子(あんず)のようで、ボトルのラベルにはぷりんとした実の写真があしらわれている。蚊の大群とは、何ともそぐわない。

 フィンランドには、「自然は万人が享受する権利がある」という考えから、たとえ国有地や私有地であっても誰もが自由にベリーやキノコなどを採る権利がある。「だから、シーズンになると週末によく森にベリー摘みに行くんです」と色々な人から話を聞いていたが、イメージしたのは林道のような場所の脇で見付けたベリーを摘む人々の姿。ところが、フィンランドを訪れた際、首都ヘルシンキ近郊の国立公園で実際にベリー摘みを体験してみると、想像とはまるで違った。道なき道を行く、ワイルドな世界だったのだ。普通の森でベリーを摘むのでさえ野性味あふれるのに、蚊と格闘しなきゃいけない沼のクラウドベリー摘みなんてどんなにすごいんだろう。

クラウドベリーのリキュール。写真のメーカーは色々なベリーのリキュールを出しているが、一番人気がこのお酒だそう。
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