オベンさんにいれてもらったコーヒーを飲みながらロクムをつまむと、確かにしっかりとした甘さが、小さなカップの下に粉がどろりと沈んだ濃いコーヒーとよく合う。特に大定番フレーバー、バラが合うのには驚いた。ともすると食べ物としては強すぎるように感じてしまう華やかな香りがコーヒーの苦みでしっとりと落ち着き、一方でこの飲み物の魅力も増してくれるのだ。

 最後にひとつ。トルコを訪れたとき気が付いたことがある。この国にはロクムの他にも様々なお菓子の専門店があり、そのひとつが乳製品を使ったお菓子を売る店だった。店頭には素焼きの器に入った“ストラッチ”と呼ばれる焼きプリンをはじめ、プリン類がずらりと並ぶ。レストランでもよく見かけ、スーパーの棚でも様々なプリンミックスが人気アイテムで、トルコを訪れたとき「これはおいしい」とお代わりをしたくなったデザートは、ホテルで食べたなんということもない昔風のカスタードプリンだった。冒頭に紹介した『ナルニア国物語』シリーズでは、1960年代に出版された邦訳本の訳者・瀬田貞二さんが、当時の日本人には馴染みが薄かったであろうロクムを「プリン」と訳している。違和感があったのだが、日本の子どもたちが想像しやすいだろうというだけではなく、このお菓子の背後にあるトルコの食文化をも考え抜いた選択だったのではないだろうか。

 さて、ロクムのおいしさを知り、トルコのお菓子事情を少しばかりかじった今、自分が魔女に誘惑されるとしたらどちらのお菓子がいいか。うーん、これが難しい。ロクムとプリン、どっちもくださいと、妖しい笑みを浮かべる魔女に所望してしまいそうなのである。

トルコのホテルのビュッフェにはプリンコーナーも。手前は焼きプリンのストラッチ。お米が入ったミルクプリンだ。
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ロクム
ホームページ https://www.lokum.jp

TOKYO世界の絶品スイーツめぐり
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世界46の国と地域、50種類の「おやつ」が大集合!
メレンダ千春 著
定価:本体1,600円+税

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メレンダ千春

海外に行けば、どこを見ずとも行くのはスーパーのおやつ売り場という、激甘から激辛まで味の守備範囲は360度のライター。最初の異国のお菓子との出会いは、アメリカに住む遠い親戚のおじさんが日本を訪れる度にお土産にくれた、キラキラ光る水色の紙でキャンディーのように包装されたチョコレート。ミルクの味が濃くて、おいしかったな~。インパクトのあるおやつを求めて、日々邁進中。

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