【番外編】オスマン帝国の宮廷菓子ロクムが「喜び」のお菓子であったわけ

 そのロクムを売っていたのは、オベン・デミルドベンさん。エーゲ海に面した都市イズミル出身でトルコの大手家電会社から独立、2017年に日本でロクムを専門に販売する会社、その名もずばり「ロクム」を立ち上げた。恋人に会いに度々日本を訪れていたのだが、この地に惹かれ日本で事業を始めることにしたのだという。なにやら、立ち上げのきっかけからして甘い香りが漂っている。

 扱うのは、イスタンブールに4つの店を構える1883年創業の菓子店「ジェミルザーデ」のロクムだ。創業者のジェミル・ベイは菓子職人の見習いとして数年働いた後、なんと16歳で自分の店を開いたのだという。今も創業以来のレシピを守り続け、コーンスターチ、砂糖、水、それにバラなどを使った天然のフレーバーからロクムを作る。「4代目のオーナー自身が菓子職人でレシピは門外不出。工房には、オーナーの他、2人の職人しか入れないんです」とオベンさん。「僕もこんな食感のものはここが初めて」と出されたロクムを食べてみると、これが求肥そっくり。もちもちとしていながらも、すっと噛み切れるぐらいの軟らかさ。思わず、もう一つと手を伸ばしたくなる。

「ジェミルザーデ」のロクム。左手前から時計回りにバラ、マスティック、ピスタチオ。
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「半年、1年など消費期限を長く保てるような添加物を加えているものが少なくないので、食感が変わってしまうんです。『ジェミルザーデ』の消費期限は3カ月。作りたてを空輸で取り寄せるから、この軟らかさが出せるんですよ」と胸を張る(ちなみに、ロクムは手に入れたらなるべく早く食べるに限る。「ジェミルザーデ」のものも、最初は舌触りも気持ちよいぐらい滑らかだったが、消費期限が迫ると硬くなってきてしまった)。

「ジェミルザーデ」のフレーバーには、伝統的に人気の高いバラ、マスティック、ピスタチオなどの他、ミント&レモンなど現代的な顔ぶれもある。現地ではポピュラーな果物であるザクロも人気が高い定番フレーバーだ。「『ジェミルザーデ』のザクロロクムは淡いオレンジ色。真っ赤なザクロそのものを思わせるような着色料を使う店も多いので、お客さんから色を濃くしてくれたらもっとおいしそうなのにと言われることがあるそう。でも、『うちは天然素材だけでやっているから』とオーナーが譲らないんです」(オベンさん)。今どきのフレーバーには、中に生クリームを仕込んだものもあるとか。もちもちの生地の中に真っ白なクリームが入った「トルコ求肥」なんて、想像しただけでヨダレがでそうだ。他の店でも作られている人気フレーバーだそうで、事務所を手伝っていた女子学生エイメン・アタヨルさんは、「クリームのロクムが一番好き」と目を輝かせる。

ザクロはトルコで最も人気高い果物のひとつでフレッシュジュースを売る店をそこら中で見かける。
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