【番外編】オスマン帝国の宮廷菓子ロクムが「喜び」のお菓子であったわけ

「トルコの喜び」――。そんな魅惑的な名前が付いたお菓子がトルコにある。英国の作家C.S.ルイスのファンタジー小説『ナルニア国物語』シリーズにも登場、魔女が子どもを誘惑するのに用いるほど魅力があるというお菓子だ。

 英語名の“ターキッシュ・ディライト”としてもよく知られるこのトルコ菓子の名前は“ロクム”(「喉の癒し」を意味するアラビア語が由来)。起源は15世紀頃にまでさかのぼると言われ、世界で最も古いお菓子のひとつとされる。弾力のあるゼリーのようなお菓子で、オスマン帝国の宮廷でスルタンが妻たちの歓心を買うために厨房の職人たちにハッパをかけて生まれたという説も。1777年には当時の首都イスタンブールに菓子職人がこれを売る店をオープンし、ロクムが広まる契機となった。初期には、小麦粉とブドウの糖蜜やハチミツなどを主な原料としていたが、19世紀になると新しい食材であるコーンスターチ(トウモロコシから作ったでんぷん)を用い、もっちりとした食感を加えたロクムが登場、現代に至っている。

ナッツ類を巻き込んだロクム。ちなみに使用ピスタチオなどは誇らしげに「ダブルロースト」などと書かれていることが多い。これは、よく炒ってカリッとした食感を高めているものだ。
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 今ではトルコのみならず世界的に大人気のお菓子で、イスタンブールの観光エリアともなれば、軒を並べるようにロクムを売る菓子店がずらり。最もオーソドックスなロクムは四角いシンプルな外観(長い棒状に成型したものを小さく切り分けている)だが、ピスタチオやアーモンド、クルミなどをふんだんに巻き込んだロール状のロクムなどもあり、店の中は宝石をちりばめたようにあでやかだ。地方の観光地でバラの花びらをまぶしたロクムを見たときは、その美しさに思わず買わずにはいられなかった。ロクムの入った容器の蓋を開けると、むせるようなバラの香り。中にはピスタチオが入っている。

 でも実は、リピートしたいほどおいしかったかと言われると、そこまでの魅力は感じられない。硬いゼリーのような食感で弾力が強く歯に粘りつくような感じもある。ロール状のきらびやかなロクムも食べてみたが、ぎっしり巻かれたナッツのおいしさはあっても、ゼリーのような本体の魅力は今一つ。現地のガイドさんお薦めのイスタンブールのロクムは、ねじり棒のような恰好をしていて栗のハチミツを使ったというもの。甘みはほのかで味わい深かったが少し硬めのゆべしといった食感。「これなら、ゆべしの方が上をいくな」と密かに思ったものだ。そもそも食の経験値が少なすぎるのだろうが、長らく「喜び」と感じるほどのお菓子という実感はわかなかった。

 ところがだ。ある日、東京の街角マーケットで売られていたロクムを食べて認識が一変した。

きらびやかな彩りのロクムが並ぶトルコの観光地のロクム専門店。
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