メキシコキノボリヤマアラシ(哺乳綱:ネズミ目:アメリカヤマアラシ科)のオス
Mexican hairy dwarf porcupine, Coendou mexicanus, male, feeding on Cecropia leaves
イラクサ科のセクロピアの葉を食べているところ。しっぽの先には毛があまり生えておらず、くるっと枝に巻きつけていることが多い。命綱の役割なのだろう。
体長:約45 cm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
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 ヤマアラシを観察し始めた当初から、ずっと気になっていたことがあった。暇さえあれば、体をかいていることだ。どうしてそんなにカユイのだろう? その答えと思われる行動にでくわした。

 その日もヤマアラシは、例のトイレにいた。用を足し終えて、寝床に戻るかな?と思いきや、木々を伝って反対方向へと向かう。

 木の上でも動きはゆっくりで、止まってはカユイカユイを繰り返している。

まだまだカユイ!メキシコキノボリヤマアラシ(15秒)
体のあちこちをいろんなかきかたでかいているメキシコキノボリヤマアラシ。針のあるところをかくと、シャカシャカと音が聞こえてくる。動画は15秒だが、この木の位置で5分以上も「カユイカユイ」とかき続けてから移動した。

 辺りは薄暗くなってきた。ヤマアラシはトイレとは別のグアバの木の枝にやってくると、立ち上がって体をグッと伸ばし、隣の木の葉を手前に引き寄せてかじり始めた。

 続いてヤマアラシは、その隣の木へ移った。こちらでも両手(前足)で枝先にある葉っぱを口元まで引き寄せて食べている。柔らかい若い葉っぱを好んで食べているようだ。

 でも、いつもと何か違うと思った。時折、手足で体から何かを払い落とすようなしぐさをする。体をかいているときのしぐさとはどこか違うのである。そして葉を少しかじってムシャムシャしたかと思うと、すぐに違う枝へと移動し、また葉をかじる。しかも、この木での動きはほかの木にいるときに比べて速い。

食事中のメキシコキノボリヤマアラシ。枝の先まで行かず、少し手前から葉を引き寄せてかじっているところ。
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 あっ、なるほど! アステカアリがいるからだ!!

 ヤマアラシが食べているのはセクロピアという木の葉。この木はアリと共生していることで知られ、アステカアリは、幹の中の節を部屋にして暮らしている。言わば、セクロピアの木全体がアリの巣で、アリたちが木を守っている。

 普段は、数匹のアリが木の幹や枝の表面、葉を巡回したりしている程度だが、ちょっとした振動や刺激を木に与えると、無数のアリたちが「どわっ!」と出てきて、木の表面を覆いつくすほどになる。

木の幹にハシゴを立て掛けて写真撮影していたら、表に出てきたアステカアリ(アリ科:カタアリ亜科)の1種。体長は約4 mm。ハシゴを登る振動と著者の存在(吐く息など)に反応したのだろう。ぼくも何カ所か咬まれた。
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 アステカアリは毒針を持っていないが、敵に咬みつき、お尻から化学物質を噴射する。咬まれると痛いし、化学物質が入り込みかゆくなる。無数のアリにやられたら、相当かゆいだろうと想像できる。

 そうか~。葉を引き寄せて食事をしていたのも、少しかじっては移動していたのも、アリを極力避けるためだったのか。ヤマアラシがいつも体をかいているのも、きっとこのアリのせいだろう。文献を調べてみると、メキシコキノボリヤマアラシは、マメ科の植物の実やイチジクの葉、そしてセクロピアの葉を好んで食べると書いてあった。

 ヤマアラシのいろいろな謎が解け、脳がスッキリ! でも、ぼくもアステカアリに咬まれた箇所が、カユイカユイになってきた(笑)。

今日も寝床でスヤスヤお眠り中。時折、カユイカユイ。どんな夢を見ているのだろう。
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西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html

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