7月半ばの夜、のっそのっそと庭を行く丸みを帯びた動物に出会った。懐中電灯に照らされた印象から有袋類のオポッサムかと思ったが、それにしては一回り大きくて顔が丸い。正体が判明しないまま、その動物は森の暗闇の中へと消えていった。
姿かたちを思い出しつつ調べてみると、メキシコキノボリヤマアラシ(以下ヤマアラシ)の可能性が浮上した。アメリカヤマアラシ科の1種で、夜行性かつ樹上性とある。
樹上性? ぼくが見かけたのは地上だけど・・・。
そこで、ヤマアラシを見たことがあるというバイオロジカルステーション管理者のマルビンさんに尋ねてみた。「たいてい木の上にいるけれど、地上を歩いているのを3回ほど見たことがある。でもこの周辺で見たのは1年以上も前のことだ」と言う。やはりぼくが見たのはヤマアラシの可能性が高い。
1週間後、今度は明るい時間に、同じ動物に再会した。まちがいない。ヤマアラシだ。
ぼくはコスタリカに住んで20年が経つが、この哺乳類を目の当たりにするのは初めて! コスタリカではプエルコエスピン(Puercoespín)と呼ばれている。意味は「トゲブタ」。ちなみに、南北アメリカ大陸に生息する樹上性のアメリカヤマアラシの仲間は、アフリカやユーラシアに生息する地上性のヤマアラシの仲間とは別ものだ。
再会したヤマアラシは、最初に出会った夜と同じ、周りを全く警戒していなさそうな歩きっぷり。ヤマアラシの行く方向へ先回りしてカメラを持って待ち構えていると、臆することなくのっそのっそとこちらへと向かってくる。そして足元スレスレを横切り、そのまま森の中へと消えていった。
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