第158回 庭の新顔 アメリカヤマアラシ(前編)
堂々としていられるのは、体に針を持っているからである。ヤマアラシは、黒っぽくて柔らかい毛の間に、黄色味を帯びた針をたくさん生やしている。針の先端は黒く、鋭く尖っていて、そこに肉眼では見えないほど細かな、鱗のような返しがいくつも付いている。天敵が襲いかかると針が刺さり、ヤマアラシの体から抜ける。刺さった針は、1時間に1ミリずつ体内へと刺さり込んでいくという。
ピューマやコヨーテなどの捕食者もきっと、ヤマアラシには手を出しにくいだろう。ヤマアラシの体の薄黄色と黒のコントラストは、哺乳類にしては珍しい警戒色の役割を果たしている。周りに「近づくな!相手にしないほうがいいよ」とメッセージを送っているのである。
さらに2週間後、ついに樹上のヤマアラシに出会うことができた。シダを食べるハバチ(第150回で紹介)の卵を探しているとき、木の幹から枝が分かれている場所に1頭のヤマアラシが寝ているのを、アシスタントのメラニーが見つけたのだ。
これまでに目撃してきたヤマアラシと同じ個体だろう。柔らかな太陽光に包まれながら、心地よさそうに眠っている。地上から5メートルぐらいの高さにいるので、隣の木に登って撮影を試みる。
寝ているヤマアラシを観察していて、気になることがあった。ときどき体をスッと起こしては、脇の下や背中をかいているのだ。体中がカユイみたいで、体のあちこちをかいては、またスッと眠りのスタイルになるというのを頻繁に繰り返している。「なんであんなにカユイのか?ダニにでもやられているのか?」と、このときは思っていた。
それからぼくは毎日、この木の上の寝床を確認するようになった。ヤマアラシは夜型なので、寝床に戻ってくるのは午前8時ごろからお昼前にかけて。そして夕方薄暗くなると、また出かけていく。
たま~に戻ってこない日もあるが、昼間はほぼ毎日同じポーズで眠り、体をかいている(笑)。もしかすると、ぼくが単に気付かなかっただけで、ヤマアラシはずっと前からここで暮らしていたのかも知れない。これからは、上も向いて歩こう!
次回は、庭の新顔 アメリカヤマアラシの後編。カユイカユイの理由に迫ります!

西田賢司(にしだ けんじ)
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html