第161回 コスタリカの青いハンミョウ「タルサリス」はなぜ飛ばないのか?

スードクシケイラ・タルサリスのメス、アゴの部分の接写。アゴの上唇はドリルのように突き出している。
スードクシケイラ・タルサリスのメス、アゴの部分の接写。アゴの上唇はドリルのように突き出している。

 ほかのハンミョウと同じく、アゴは頑強で体格はがっしりしている。問題は翅だ。たとえば同じ甲虫であるオサムシの仲間には、後ろ翅が小さくなって飛べないものも多い。

 タルサリスの前翅を開いてやると、折りたたまれていた後ろ翅が、しばらくして開いた。たたんだり、広げたりすることは可能とわかったが、翅を震わし、羽ばたくそぶりは一切見せなかった。少しズングリしているが、体格や構造を見る限り、明らかに飛べないというわけでもなさそうだ。

前翅をピンセットで挟んで後ろ翅を確認。飛ぶことはできそうだが、羽ばたくそぶりは一切見せなかった。
前翅をピンセットで挟んで後ろ翅を確認。飛ぶことはできそうだが、羽ばたくそぶりは一切見せなかった。

 世界のハンミョウを取り上げる学術誌の編集者であるロナルド・ヒューバーさんが、1976年に発表された論文(Palmer, M. K. 1976)に、このハンミョウの飛んだ例が紹介されていると教えてくれた。

「オス、メスともに機能性のある翅があり、飛ぶことができる。ただし、飛ぶことはまれ。14カ月の野外での観察中、オス2匹、メス3匹の飛ぶところを見ただけ。飛び立つときは植物によじ登ってから飛行を試みた。飛び方はゆっくりで、まっすぐで、無理して飛んでいるように見える」と書いてある。

交尾中。オスがメスの胸部のくびれに、大アゴをガッツリと挟み込んでいるところ。ドリルのような上唇(写真では、オスの頭の先から飛び出している黒いくちばしのような部分)は、メスの胸部の背部のくびれにドッキングロック(施錠)をする機能も果たしているのかもしれない。
交尾中。オスがメスの胸部のくびれに、大アゴをガッツリと挟み込んでいるところ。ドリルのような上唇(写真では、オスの頭の先から飛び出している黒いくちばしのような部分)は、メスの胸部の背部のくびれにドッキングロック(施錠)をする機能も果たしているのかもしれない。

 ただし、この研究はここモンテベルデから270キロほど離れたパナマとの国境付近で調査した結果なので、注意が必要だ。生息環境が異なるため、生態も違っている可能性がある。種が違う、亜種ということもある。

 モンテベルデの場合、他の山岳地帯に比べ、風雨が年中強く、気温も低い。地形の起伏も激しく、環境的に開けた場所もあまりない。そのため、ハンミョウにとっては、飛ばずに地上を移動したほうが動きが安定し、獲物を効率よく捕らえられたり、産卵場所へとたどり着けたりするのかもしれない。「下手」に飛んで鳥に捕食される危険も少なくて済むだろう。モンテベルデ一帯の個体は、飛ばない方向で淘汰が進んでいて、すでに飛べなくなっている可能性もある。

 調べたところ、どうやら日本にも、後ろ翅はあるが、飛ばないハンミョウがいるようだ。その辺を探ってみるとさらにヒントが得られるかもしれない。

日本のハンミョウの小ギャラリー(画像クリックでギャラリーへ)
日本のハンミョウの小ギャラリー(画像クリックでギャラリーへ)
ナミハンミョウ(オサムシ科:ハンミョウ亜科):日本のハンミョウの小ギャラリー
Tiger (ground) beetle, Cicindela japonica (Carabidae: Cicindelinae)
日本を代表する甲虫の一種と言えるだろう。開けた砂地にいた。そっと近づいては逃げられを繰り返し、やっと撮影できた。写真はメスで、アゴの一部が白く、前翅の付け根に白い点がない。
体長:20 mm 撮影地:高知県津野町、標高490 m

タルサリスのオスの採集の協力は、Rohan Kalva & Seishi Kalva。

参照文献
Palmer, M. K. 1976. Natural history and behavior of Pseudoxycheila tarsalis Bates. Cicindela 8:61-92.
Palmer, M. K. 1983. Pseudoxycheila tarsalis (Abejón Tigre, Tiger Beetle). pp. 765-766. In: Costa Rican Natural History, D. H. Janzen (ed.), University of Chicago Press.

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