第161回 コスタリカの青いハンミョウ「タルサリス」はなぜ飛ばないのか?

暑い夏!涼しげな青のハンミョウ(斑猫)をご紹介。この季節、熱中症にどうぞお気をつけください。ニシダは熱虫症! 飛ぶのか飛ばないのか?そこが問題だ。
暑い夏!涼しげな青のハンミョウ(斑猫)をご紹介。この季節、熱中症にどうぞお気をつけください。ニシダは熱虫症! 飛ぶのか飛ばないのか?そこが問題だ。

 コスタリカに、一風変わった昆虫がいる。飛ばないハンミョウだ。

 甲虫の仲間であるハンミョウは大きさが10~20 mmほど、世界各地に2000種以上が生息している。日本でも22種が確認されており、人が歩く先へ先へと少しずつ飛ぶことから「道教え」の異名をもつ。ぼくも幼いころ、山手の開けた道でよくハンミョウに導かれた。

 ところが、ここコスタリカのモンテベルデにいるハンミョウ、Pseudoxycheila tarsalis(スードクシケイラ・タルサリス、以下タルサリス)は、飛ばない。これまで何十個体と出会ってきたが、飛んでいるところを見たことがないのだ。

スードクシケイラ・タルサリス(ゴミムシ科:ハンミョウ亜科)のメス
スードクシケイラ・タルサリス(ゴミムシ科:ハンミョウ亜科)のメス
Tiger (ground) beetle, Pseudoxycheira tarsalis (Carabidae: Cicindelinae), female
真上から見たところ。紺色の体に前翅の白っぽい二つの斑点が特徴。斑点の部分は、翅が半透明で光が透ける。紺色は構造色。生息地は、コスタリカからパナマにかけての山岳地帯の中腹、標高600~2000 m。
体長:15 mm 撮影地:コスタリカのモンテベルデ、標高1500 m

 文献にも「基本飛ばない」とあるし、コスタリカの甲虫を研究しているアンヘル・ソリスさんに尋ねてみても、「飛ぶところを見たことがないよ。空中に放り投げても飛ばない!」と言う。これはどういうことなのか?

 タルサリスは、紺色の体に白っぽい斑点が二つあるハンミョウだ。よく見かけるのは雨期の中盤に当たる6月から7月。メスが数匹、むき出しになった粘土層の土壌をウロウロしては、止まって何かをしている。産卵だ。

【動画】コスタリカのハンミョウ「スードクシケイラ・タルサリス」の産卵後の穴埋め行動
「お尻」の先端の器官(下で紹介してます)を使って、土を「もぎ取って」は、産卵穴の部分に貼り付けて整備しているように見える。(撮影:西田賢司)
卵の大きさは1.5 × 0.7 mm。黄色からクリーム色をしている。成長すると中に幼虫の眼や体毛やアゴが見え始める。どこかスマイリーな顔のように見える。
卵の大きさは1.5 × 0.7 mm。黄色からクリーム色をしている。成長すると中に幼虫の眼や体毛やアゴが見え始める。どこかスマイリーな顔のように見える。

 周辺には直径3ミリほどの穴がたくさん開いている。これらは若い幼虫の巣で、穴に近づいたり、入ってきたりする獲物を食べて成長する。

若い幼虫たちのすむ穴が林道沿いの土手に開いている(直径2~3ミリ)。
若い幼虫たちのすむ穴が林道沿いの土手に開いている(直径2~3ミリ)。
幼虫の穴。顔(頭)を入り口付近まで持ってきて、大アゴを開いて、獲物を待ち構えている。コチラの気配に感づくと、スッ!と穴の奥へと消える。穴の直径は6 mm。
幼虫の穴。顔(頭)を入り口付近まで持ってきて、大アゴを開いて、獲物を待ち構えている。コチラの気配に感づくと、スッ!と穴の奥へと消える。穴の直径は6 mm。
1齢幼虫の大きさは4 mm。出てきた幼虫は、いかつくパワフルな装いをしている。
1齢幼虫の大きさは4 mm。出てきた幼虫は、いかつくパワフルな装いをしている。

 さて、タルサリスは飛ぶための体をもっているのか? 採集し、体の構造を調べてみることにした。

次ページ:翅はしっかりあるのだけれど…

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