恐竜のようなイメージ? 開いたくちばしの中に一本の藁(わら)のような棒が見える。舌だ。
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 なぜそんなに長い間、同じ場所で鳴き続けるのだろう? 鳥に詳しい同僚、ホエル・チャベス(Johel Chaves)に尋ねてみたところ、「つがい同士、または群れの仲間同士とのコミュニケーションであろう」との返事があった。詳しいことはわかっていないようだ。

 ところでこのサンショクキムネオオハシ、ぼくが住んでいるモンテベルデの森で見かけるようになったのは最近10年ほどのことらしい。鳥に詳しい同僚たちによると、出くわす回数がここ数年増え続けていると言う。

上の写真の開いたくちばしを拡大。中央に藁(わら)のような舌。味を細かく感じるために毛が生えたような形状をしているという。同僚によると、穴や巣の中にいる獲物を感じ、探し当てるのに使われている可能性があると教えてくれた。くちばしのかみ合わせ部分が歯のようにギザギザになっているのもわかる。
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 本来この鳥は、熱帯雨林などの暖かい低地を好み、コスタリカではカリブ海側の低地でよく見かけられる。文献によると標高約1200メートル、もしくは1400メートルまで分布するとあるが、我が家があるのは標高が1500メートルを超えた、涼しく、時には寒い雲霧林だ。

 なぜそんな標高の高い所に出没するようになったのか、はっきりとした要因はわからないが、おそらく地球温暖化の影響だろうと同僚たちは口をそろえて言う。

木々の間を移動するサンショクキムネオオハシに木漏れ日が当たる。首の背中側の黒く見える部分にも赤い羽毛が生えているのがわかる。
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 実は、モンテベルデの涼しい雲霧林にサンショクキムネオオハシが出没するようになったことに、鳥の自然ガイドをしている人たちは複雑な思いを抱いている。この鳥が主に食べるのは大小の木の実やタネだが、ほかにも昆虫や小型のトカゲ、ヘビ、さらには巣の中の鳥の卵やヒナも食べることがあるからだ。モンテベルデは「幻の鳥」ケツァールが生息し、バードウォッチングが盛んな土地だが、このレインボーな新顔が鳥の巣を荒らすことで、もともといる鳥たちの数が減ってしまわないか、心配する声が上がっている。

 木の上で鳴くサンショクキムネオオハシを観察し続けていると、近くで鳥の羽音が聞こえた。そして次の瞬間、1羽の鳥が羽を大きく広げてサンショクキムネオオハシに襲いかかった。

 あっと思った瞬間、サンショクキムネオオハシはその攻撃をさっとかわし、ひるむことなくその鳥を追いかけ、追い払ったのである!

ヨコジマモリハヤブサ(ハヤブサ目:ハヤブサ科:モリハヤブサ属)
Barred Forest-falcon, Micrastur ruficollis
太い枝の上に片足で休んでいるところ。低地から高山の森に生息。分布は中南米の熱帯地域に広がる。獲物は小型の鳥、リスやネズミの仲間、グンタイアリの群れが追い出す昆虫など。体長は約40 cm。
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 サンショクキムネオオハシを襲ったのは、猛禽類、ハヤブサの一種だった。体格はサンショクキムネオオハシのほうが一回り大きい。ねらった獲物が大きくてパワフルすぎたようだ。

 ハヤブサは撮影者に気付いて森の奥へと飛んでいった。サンショクキムネオオハシの「つがい」も、1時間半ほど同じ場所で鳴き続けた後、谷の向こうへと飛んでいった。そしてまた遠くからあの鳴き声が聞こえ始めた。

首を上げて鳴いた瞬間。
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 同僚のJohel Chavesには鳥の情報と確認を、イラストレーターのHaruko Ojimaさんには、絵の具の色の実演を依頼しました。ムーチャスグラシャス!!

西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html

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