第140回 雨季を告げる雨、森は黄金色に染まった

夕焼けの色がモンテベルデバイオロジカルステーションの森を包み込んだ
Sunset colors surrounding the cloudforest of Estación Biológica Monteverde
しだいに暗くなって、絵に描いたような空になった。風と雲と光が織り成す、これまでに経験したことのない色だった。
撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
[画像のクリックで拡大表示]

 その日の夕方、6時ごろだったろうか・・・夕食の支度を始めたぼくは、外の雰囲気がおかしいことに気が付いた。いつもより黄色っぽく、明るいのだ。ぼくはさっそくカメラをもって、本棟の2階のバルコニーへと走った。

 森が黄金色に染まっていた! 連載第25回で紹介した「モンテベルデの恋しい色」とはまた一味も二味も違う色。雨季と乾季の狭間がもたらしたであろう、これまでに感じたことのない色がそこにあった。

 森と空の色は、時間とともに次々と展開していった(上の写真)。ぼくは、ぼーっと無心になり、呼吸をするのを忘れるぐらいの状態になった。

 いつもとは違う不思議な色の空間は、あまりにも印象的だったので、真っ暗になった夜中も、ぼくは、色に酔いしれていた。

黄金色に染まったバイオロジカルステーションの森。1~2分の出来事だった。夕日で赤く染まる森を見ることはたまにあるが、こんな色は初めて。
[画像のクリックで拡大表示]
初めて雨が降った日の夕暮れ時、モンテベルデバイオロジカルステーションの2階のバルコニーから日が暮れていく太平洋側の斜面を望む。右下奥にニコジャ半島が見える。
[画像のクリックで拡大表示]

 初雨の夜なら、昆虫たちも騒がしく活動しているにちがいない。懐中電灯を持って家の周りを1周してみることにした。

 リリリリリリ~ン、チチッチチッなど、キンヒバリやキリギリスなどの鳴く虫たちの歌声や合唱が、雨が降る前に比べていっそう力強く響いて来る。木製の家の壁をたくさんのザトウムシやハサミムシがウロウロしている。

 お! 茂みから飛び出した1本の植物の葉の裏、目線の高さに、羽化し終えたばかりのツノゼミがいた! 黄緑色に赤い線が入っている。新緑の季節らしく、若葉っぽい装いだ。

葉の裏で羽化し終えたばかりのツノゼミ(Smilinae亜科)。小さなウルトラマンのように見える。隣には、半透明の白っぽい羽化殻。
[画像のクリックで拡大表示]

 さっそく採集して写真を撮り、ツノゼミの専門家でSmilinae亜科に詳しいマケイミー博士(Dr. S. Mckamey)とウォレス博士(Dr. M. Wallace)にメールで送ってみた。すると返事では、どの属のものなのかハッキリしない「なぞ」のツノゼミだという。ぼくが研究用に羽化殻も保存しておいたことを博士らは喜んでおられた。2017年度の「昆虫ミステリー」のひとつになった。解決されるのが楽しみだ。

 今年度は、モンテベルデバイオロジカルステーションを拠点に、コスタリカの自然からどんなことを受信し、発信できるのだろうか?

博士らに送った写真。「なぞ」のツノゼミが翅を広げて飛行する瞬間。翅の付け根の黄色と緑は、この写真を見るまで気付かなかった。
[画像のクリックで拡大表示]
Smilinae亜科のツノゼミの羽化殻
Nymphal shell of a smiline treehopper
「なぞ」のツノゼミの羽化殻を正面から接写してみた。
頭部正面の幅:2 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
[画像のクリックで拡大表示]

『ミラクル昆虫ワールド コスタリカ』 西田賢司

西田賢司さんの連載「コスタリカ昆虫中心生活」が本になりました!
スゴイ虫からヘンな虫、美しい虫まで、生物多様性の国コスタリカの魅力満載。

定価:1800円+税、128ページ、オールカラー

ナショジオストア アマゾン
西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html