パッションフルーツの中で、最大級(長さ20センチ以上)の実をつける。後で紹介するヘリコニウス・イスメニウス・クラレセンス(Heliconius ismenius clarescens)の食草。
花の大きさ:約10 cm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
前回に引き続き、今回は「毒蝶の一生 後編」をお送りします。
卵から育て始めたドクチョウの一種、ヘリコニウス・クリソニムス・モンタヌス(以下、モンタヌス)は卵から孵化して2週間、脱皮を重ねて5齢(終齢)幼虫に成長した。
さらに5日後、体ははちきれんばかりになり、葉や茎を食べるのをやめてウロウロし始めた。サナギになる場所を探しているのだろう。
幼虫がサナギになりやすいように、飼育袋の中に枯れた枝を設置した。すると幼虫は枯れ枝の上をくまなく歩き回り、翌日、ブラ~ンと逆さになってぶら下がっていた。色は元の淡いクリーム色から濃いクリーム色になっていた。
でも、これはまだサナギではない。もう1回皮を脱いで、はじめてサナギになる。
こまめに観察していると、夜中になって、ぶら下がっていた幼虫が時折ヒクヒクと体を動かし「軽く腹筋をする」ような仕草を見せた。いよいよか?
すると突然、幼虫の皮が「お尻」の方(ぶら下がっている付け根)へと動き出し、丸まっていた背中から白いサナギが姿を見せ始めた。そしてツノのような先端部分などが少しずつ伸びていき、色がしだいに濃くなっていった。
翌朝、サナギは「縮れた枯れ葉」のようになっていた。
サナギの下には、終齢幼虫の抜け殻が落ちていた。
それから2週間が経とうとするころ、サナギの表面の色がグッと濃くなった。羽化が始まるかもしれない。ぼくはサナギがついた枝を外へ持って行き、他の木の枝にくっつけた。様子を気にかけていると、その2日後のお昼過ぎ、気温が上がってきた時間、羽化が始まった!
3分ほどかけてサナギから出てきて、モンタヌスは翅を伸ばし、乾かして、同じ場所でぶら下がったまま夜を迎えた。
翌朝、森の中に陽の光が注ぎ始めたころ、その姿はなくなっていた。
ところで、ドクチョウの仲間は集まって「眠る」習性がある。夕方になると、1匹、また1匹とツル(蔓)のような細い枯れ枝に集まってくる。
集まっていれば、1匹が危険を察知してみんなが飛んで逃げることができるし、夜中でも「毒を持っている」ことを示すニオイをより強く周辺にアピールできるかもしれない。また、明るくなった時には翅の警戒色をより目立たせる効果があるだろう。
成虫となって飛び立っていったモンタヌスも、黒にオレンジとクリーム色のコントラストが鮮やかな翅を羽ばたかせ、花から花へと飛びまわり、仲間と寄り添って休んでいることだろう。

西田賢司(にしだ けんじ)
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
おすすめ関連書籍
昆虫とともに暮らす著者の、ちょっと変わった昆虫中心生活。奇妙で面白い昆虫写真が満載!
価格:1,980円(税込)