一体全体、何のかたちをしているのだろう・・・? ジメジメ、ムシムシな熱帯雨林の薄暗~いジャングルの中にひっそりと暮らす不思議な風貌のツノゼミ。その小さな姿かたちをとくとご覧あれ~ということで、今回紹介するのは、ヨツコブツノゼミ(Bocydium属)の1種。まだ名前が付いていない未記載種だ。現在ヨツコブツノゼミ専門の研究者と共に新種発表に向けてデータをまとめたりしているところなのだが、先駆けてみなさんに生きざまの一部を見てもらいたい!
ヨツコブツノゼミの仲間は、中米南部から南米にかけて広く生息していて、コスタリカでは、降雨量の多い熱帯雨林の薄暗い森の中で見かける。
今回のヨツコブツノゼミが見つかるのはたいてい葉の裏側で、緑の葉に浮かび上がる黒い影絵のよう。た~まに葉の表側を歩いているのを見かけるが、裏側の太い葉脈上にいることが多い。
このツノゼミを正面からみると、ツノが『タケコプター』かアンテナのように頭の上にのっかっているように見える。見た目のインパクトが強いので、見たい、撮影したいという人は多いが、実際に見てもらってみんなが驚くのはその大きさ。体長4ミリ程度と、「予想以上に小さい!」のである(ぼくは、もっと小さなツノゼミたちを見てきているので、それほど小さいとは思わない)。
奇妙で不思議なかたちをしたツノには、名前の通り4つのコブ(膨らんだ部分)がある。このツノのかたちは何なのか? 以前から問われているこの疑問・・・ 現在もなお、謎のままだ。
これまでにも紹介してきたが、一般にツノゼミのツノにはモノマネ(擬態)や体を保護するヘルメットのような役割以外に、鳴く音(振動音)を増幅させて出来るだけ効果的に周りの仲間に伝えるという大切な役割があると考えられる(第127回、第131回)。例えばオスがメスを探したり、求愛するときに鳴く。
セミのオスと同様、ツノゼミにはオスメス共に、腹部から胸部にかけて音を出すための筋肉と膜がある。鳴いているときは、たいてい腹部(とツノ)を小刻みに動かしている。次の動画をご覧いただくとその様子がうかがえる。
ツノゼミの求愛と言えば、鳴き声での求愛が知られているのだが、あるとき想定外の場面を目撃することになった。なんとオスがメスの真横で翅を広げたり閉じたりしているではないか! しかもよく見ると、オスの方がわずかながらカラフルだ(次の写真)。
オスはメスの隣で翅を瞬時に広げ、自分の「美しさ」を披露し、メスに何かを語りかけているようだった。「ヨツコさん、君にゾッコンだよ~」しばらくすると翅を閉じてメスの反応をうかがい、また翅を広げ次の口説き文句を投げ掛けているようだった。「ぼくっておしゃれじゃな~い?」
交尾の前に鳴き声(振動音)以外で求愛するツノゼミって見たことも聞いたこともなかったので、この行動を目撃した瞬間からドキドキ・・・撮影中は、唾(つばき)を何回ものみ込んでいた。ゴクリ!
観察や撮影が終わるころ、熱帯雨林ならではの大粒雨の午後のスコールが降り始めた。 すると、ヨツコブツノゼミたちは中央の葉脈で整列をし始めた。葉に当たる雨の勢いの影響を一番受けにくい場所なのだろう。
次回は、このヨツコブツノゼミの生態の続きです。幼虫たちや羽化の様子、さらには「昆虫探偵ニシダ」の考察を交え、この奇妙で不思議なツノの謎の真相に少しでも迫りたいと思います。

西田賢司(にしだ けんじ)
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html