第152回 怖がらなくて大丈夫、毒蝶を育ててみた
今週のピソちゃん&謎の幼虫News
屋根の上で綱渡りをして、キッチンの中を覗きこむように匂いをかいでいたオスのピソちゃんを、第151回で紹介した。
そのピソちゃんが、今度は、屋根の上をスタスタとこちらへ向かって来た。
気付かれないように壁の横に隠れて撮影を続けていると、ピソちゃんは鼻をクンクンさせながら、2階のベランダで撮影しているぼくの足元へやって来た。普通だったら、人間のニオイを間近に感じるとスグに逃げていくのだが、このピソちゃんは違っていた。
容赦なくぼくの靴やズボンを嗅いでくる。カメラを向けても、逆にそのカメラに鼻を当ててくる始末。観光客が餌を与えているからだろう、完全に人慣れし、「ほぼ餌付け」されたような状態になっている。
厳しい野生の環境で生きていくチカラを失いつつあるピソちゃん。
本当に困ったもんだ。
話は変わるが、第150回で紹介した「群れをはぐれたハバチの幼虫」、第151回でサナギになったらしいことを報告していたが、先日、成虫が出てきた!
見た目は、ベッコウバチやジガバチ(アナバチ)といった、狩りをするハチの仲間に似ている。擬態しているのかもしれない。これまでぼくは自然の中で、このようなハバチは見たことないし、標本でも見たことがない。
早速、ハバチの専門家、スミソニアン自然史博物館のスミス博士(Dr. Dave Smith)に連絡を取ってみた。博士の返事は「こんなハバチは見たことがない! これは新種だろう! 写真では、シダハバチの1種の感じというのがわかるぐらいだ。早く標本を見たい!」とのこと。
卵や幼虫から飼育したからこその成果と言えるだろう。さあ、標本を送る準備をしないと!

西田賢司(にしだ けんじ)
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html