第137回 生きたツノゼミを食い破ってハチが出てきた!(動画アリ)

容器に入れていて寄生バチが出てきたツノゼミの亜終齢幼虫の塊。17匹が枝の上を歩いたり、しがみついていたりと、確かに全員生きている。体長は約5 ミリ。
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 昆虫を飼育していると、生きた幼虫から寄生バチの幼虫が出てくることや、死んだ幼虫から寄生バチの成虫が出てくることは、「ごくふつう」にある。でも、生きた幼虫から寄生バチの成虫が出てくることはこれまでなかったし、聞いたこともない。しかも、寄生バチが出てきてからも、寄生されていた幼虫は「元気よく」生きているのだ。

 これは摩訶不思議!ということで、ツノゼミの羽化の撮影を終わらせ、「昆虫探偵ニシダ」は、この寄生バチの謎を探ってみることにした。

 ツノゼミの幼虫たちが集まった枝を、終齢幼虫や亜終齢幼虫などそれぞれの塊(集まり)ごとに切り分け、透明のプラスチック容器に別々に入れていく。隔離作戦だ。

 そして数十分後、容器に目をやると、ある容器の中にせわしなく動く寄生バチが出現していた! 亜終齢幼虫たちが入った容器だ!

 これはもう、ツノゼミの幼虫から出てきたとしか考えられない。でも幼虫たちは元気そうにしていて、見た目も全く変化がない。

 こうなったら詳細に調べるしかない。幼虫を1匹ずつ枝から外し、実体顕微鏡で見てみることにした。すると、1匹目の幼虫のお腹(腹部の腹側)に筋のような穴が開いているではないか! これは寄生バチが食い破って出てきた穴に違いない。すべて確認すると、17匹中15匹に同様の穴があった。2匹には穴はなく、中央の黒く細長い部分が膨らんでいる。ハチのサナギが入っていそうだ!

バラノトゲツノゼミの亜終齢幼虫をひっくり返して撮影。腹部中央に細長い切れ目の穴が空いている。
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腹部中央に縦長に膨らんだ黒い部分が見える。中に寄生バチのサナギがいる。
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 ハチの成虫が今すぐ出てきてもおかしくない。急いでツノゼミの幼虫をひっくり返して撮影を開始! すると5分もしないうちに腹部の腹側がモゾモゾと動きだし、ハチのアゴらしきものが見え始めた。羽化しようとする寄生バチが幼虫のお腹を切り裂き始めたのだ。

幼虫の腹部に切れ目が入り始めた。寄生バチがアゴで幼虫のお腹を切り裂いていく。
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 切り進むスピードはさほど速くない・・・約40分後、ハチの頭のほぼ全体が見えたかと思うと、スルーっと滑るように寄生バチがツノゼミの幼虫から飛び出し、あっという間にそこから離れていった。

【動画】ツノゼミの幼虫から出てくる寄生バチ(25秒)
トビコバチ(Prionomastix属の1種)がバラノトゲツノゼミ(Umbonia atalia)の亜終齢幼虫のお腹を食い破って羽化してくるところ。お腹を食い破り始めて約40分後の最後の25秒。幼虫をひっくり返して撮影。

 寄生バチが出ていった後の幼虫の腹部には、ぽっかりと大きな穴が開いていた。元気ではないと思うのだが、案外「元気に」している。

寄生バチが出ていった直後のバラノトゲツノゼミの幼虫。お腹の腹側にぽっかりと大きな穴が空いている。
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上の動画の撮影後、仲間たちがいる枝へと戻した幼虫。「無事」に仲間と合流。
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 撮影後、仲間の元へと戻したが、以前と変わりない様子。他の幼虫たちも採集したときのように枝の上で集まって、あまり動かずにいた。しかし、2日、3日、4日と経つにつれ、ポトポトと少しずつ枝から落ちて息絶えていった。寄生バチが出てきた幼虫はそれ以上成長することはなかった。

終齢幼虫から無事に羽化したところのバラノトゲツノゼミ(Umbonia atalia)。体長は約10ミリ。幼虫の羽化殻(抜け殻)が上についている。
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 生きた幼虫に寄生し、生きた幼虫の中でサナギになり、成虫となって生きた幼虫から出てくる寄生バチ。寄生バチが出ていった後も、しばらく生きているツノゼミの幼虫・・・。こんなことがあるのか?とトビコバチの世界的権威、大英自然史博物館のジョン・ノイズ博士(Dr. John Noyes)にメールで尋ねてみた。

 すると、あるトビコバチのグループでこういった記録があること、でも今回の観察記録をどこかで発表する価値は十分あるとの返事をいただいた。さらに、生きた幼虫内のトビコバチのサナギは、幼虫の気管系と接合して呼吸をするといった情報も教えてくれた。スゴく興味深いので、寄生されていそうな「怪しい」ツノゼミの幼虫たちを今度見つけたら解剖してみようと思う。

ジョン・ノイズ博士(Dr. John Noyes)、トビコバチの生態情報と同定ありがとうございます!(Noyes, J. S. 2016. Universal Chalcidoidea Database. World Wide Web electronic publication. http://www.nhm.ac.uk/chalcidoids

生きたツノゼミの幼虫から出てきた寄生バチ、プリオノマスティックス属の1種(Prionomastix sp.、トビコバチ科)。大きさは3ミリ程度。出てきてしばらくウロウロしていたが、止まって脚や触角、翅などの手入れを始めたところ。
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頭部正面上から撮影。「かわいらしい顔」をしている。
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西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html