古くから美術や文学のテーマとして登場しているにもかかわらず、人体自然発火は実際にある現象かどうかを巡って議論が続いている。
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 世の中には信じられない出来事が起こることがある。映画や小説のネタによく使われてきた「人体自然発火現象」。そんなものが現実に存在するわけがないと、誰しもが思っていることだろう。ところが、あろうことかこの現代のアイルランドで、マイケル・フェアティという76歳の老人が焼死し、検視官はその死因を自然発火現象だと断定した。これには世界中が驚愕し、当然のごとく判定には異論が続出した。

 それは2010年のクリスマスまであと数日という、ある日の早朝のことだった。アイルランド西部にあるゴールウェイ近郊の町、バリーバンで火災報知器が鳴り響いた。目を覚ました住人がフェアティ家からもうもうと煙が吹き出しているのを見て、すぐさま消防署に通報。家の中に踏み込んだ消防隊がそこで目にしたのは、悲惨な光景だった。

 フェアティ氏が居間の床の上に倒れて死んでおり、その体は黒こげになっていたのだ。だが、消防隊員たちの顔には、痛ましさとともに深い困惑の色が浮かんだ。遺体が横たわっていた場所の床と天井以外には、建物が燃えた形跡がどこにもなかったのだ。

 建物をくまなく現場検証しても、消防隊は火元となるような物質を見つけることができず、またフェアティの殺害を匂わせるものも発見されなかった。遺体が横たわっていたのは暖炉のすぐ近くだったが、調査の結果、暖炉の火はフェアティの死に繋がる原因ではないと断定された。

 死因に関する審問が、ウェストゴールウェイの検視官、キアラン・マクローリン医師のもと、2011年9 月に行われた。専門家による鑑定と、さまざまな専門書を詳細に検討した結果、彼は驚くべき結論に達した。「この火災を徹底的に調査した結果、私はこの事件が、説明のできない人体自然発火現象の部類に当てはまるという結論に至りました」。マクローリンが25年間におよぶキャリアの中で、このような判定を下したのは初めてのことだった。

人体自然発火現象の証拠写真は数少ない。この背筋も凍るような画像は、1958年1月にロンドン西部で発見されたE.M.夫人(69歳)の焼け残った遺体だ。上半身は暖炉の中にあるが、通常の暖炉の炎では温度が低すぎて、このように人体が燃え尽きて灰になることはない。
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 では、「人体自然発火現象(Spontaneous Human Combustion)」とは、いったいどういう現象なのだろうか。簡単に言えば、明らかに外部に火気がないにもかかわらず、人が突然炎上する事象を指す。記録に残るもっとも古い事例は1663年のパリに遡る。一人の女性が燃え上がり、跡形もなく消えてしまったが、彼女が寝ていた藁のベッドは焼けた気配がまったくなかったという。

 被害者たちの身に起こったのは「人体ろうそく化現象」だという説がある。この現象では、火元(暖炉の燃え差しやタバコの火)が被害者の着衣に引火して燃え上がる。それと同時に、なんともぞっとする話だが、皮膚が裂けて脂肪層が露出すると、衣服がろうそくの芯、脂肪はろうの役割を果たすようになり、燃焼する。こうして燃料として供給される人体の脂肪が燃やし尽くされると、やがて火は消え、周囲は延焼せずに残る。

 人体自然発火は決してよくある現象とはいえないが、前例はある。過去300年間に、世界中でなんと200例もの事件が報告されているのだ。

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