第6回 野生のアマゾンマナティーにロガーを付ける日

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「短期的には、放流再開を目指します。私、2009年からずっと次の放流の機会を待ってたので、来年の1月、何としても放流までもっていきたいです。ロガーの性能も上がって、うまくいけば1週間のデータもとれるので、より詳しいことが分かります。それがクリアできれば、次は定期的な放流を目指します。ただ1回で終わりにするんじゃなくて、定期的に研究所の飼育施設から半野生の施設へ、半野生の施設から川への放流という流れをつくりたいです。そして毎回データをとって、積み重ねていきたいです。一たん飼育環境を経験したマナティーが、アマゾン川のように季節によって大幅に変化する環境に再び適応できるのかどうか。もし、放流個体が野生に適応できないなら、無理に放流する必要はないと私は思っています。そのための評価をするには、定期的に放流を実施して、データを蓄積していかなきゃいけません」

 本当に、2009年から続く、大きな流れの中で、正念場という時期に、ぼくは訪ねたのである。

 そして、こういった目の前の大仕事の先にある究極の目標はというと──

「やっぱり野生個体に機器を装着して、未だ謎の多い行動を調べたいです。水の中で何をしているのか、とても興味が有りますし、野生個体の行動は放流に重要な情報となります。今後は、INPAとの共同研究で野生個体の捕獲調査も予定しています。もしも1日24時間、365日の行動データが取れたら(記録期間は多ければ多いほど良いですが)、幸せいっぱいに家にこもって解析します。そして面白い結果を出して、成果を発表してマナティーに注目を集めていきたいですね」

 なにはともあれ、保護されたアマゾンマナティーを野生に戻す放流が、間近に迫っている。この文章が発表されたら、ほぼ1カ月後だ。その成功を願ってやまないし、さらに菊池さんの研究が深まり、野生のアマゾンマナティーの「日常」が解き明かされるのを心待ちにしている。

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おわり

菊池夢美(きくち むみ)

1981年、東京生まれ。京都大学野生動物研究センター所属、プロジェクト研究員。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士号(農学)取得。主にマナティーの行動研究を行っているが、その他にも南極のウェッデルアザラシ、イセエビ、魚の鳴音など、幅広いデータを扱ってきた。2007年よりブラジルの国立アマゾン研究所との共同研究を開始し、動物搭載型の記録装置を用いたアマゾンマナティーの行動把握のための手法開発を行なっている。2009年には保護したアマゾンマナティーを再び川へと放流する野生復帰事業に参加した。2016年1月、京都大学と国立アマゾン研究所の共同プロジェクト(SATREPS「“フィールドミュージアム”構想によるアマゾンの生物多様性保全」)により、7年ぶりにアマゾンマナティーの放流を実施予定。放流個体の野生への適応を評価することを目指している。マナティーについての研究をFacebookページにて公開中。「Study of manatees(マナティー研究)

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)(『雲の王』特設サイトはこちら)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、『雲の王』と同じく空の一族の壮大な物語を描いた『天空の約束』(集英社)、ニュージーランドで小学校に通う兄妹の冒険を描いた『続・12月の夏休み──ケンタとミノリのつづきの冒険日記』(偕成社)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。2015年10月に有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を開始した。