第5回 アマゾンマナティーは水中で「ぐるぐる回る」

「長い間、水槽の中にいたからそういう動きになるんだ、と言われました。検証しましたが、水槽の直径よりもずっと小さい直径で回っていました。マナティーの体長よりも小さい円です。それも、記録が取れた12〜13時間のうち8割方をです。なので、何か理由があるのだろうとは指摘しました」

 もうちょっと具体的に言うと、どうなるのか。

「2頭のマナティーは飼育水槽から突然、川に放流したので、多分、わけがわからない状態だっただろうと思うんです。知らない場所だし、濁っていて周りが見えない。そこで、カイギュウ類の特徴的な感覚毛、特に感覚が鋭敏な口元の毛を利用して、ゆっくりと360度全方向を確かめるように回りながら移動していけば、餌植物や隠れ家にもなる水没森林にたどり着くことができる。動物の行動を人間に持ってきて考えるのはよくないですけど。でも、自分が知ってるのは人間の行動なので、ちょっと置きかえて考えてみます。人間だっていきなり真っ暗な何もわからないところにポンと放り込まれて、どこか行けって言われたら、こんな感じになりますよね。何も見えなかったら、一番の感覚器は手ですから、手を突き出してまわりを確認しつつ少しづつ進みます。マナティーにとって、それは口元のヒゲなので、こうやって回って確かめながら動いていっても、おかしくないと思ってます。次に放流する個体は、マナカプルで、半野生状態で数年間過ごしているので、川へ放流されてもそれほど慌てないだろうとは思います。そういったことも含めて、今後どんどん検証していきたいと思います」

INPAの水槽で撮影。アマゾン川の水はもっと濁っていて視界が効かない。
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 誰も見たことがない行動が明らかになったわけだが、それは、飼育個体が本来の環境にいきなり放された時に起きる、特殊な行動だったのかもしれない。とはいえ、視界が効かない環境で、彼らにとっては自然な「慎重行動」だったのかもしれないともいえる。ひょっとすると、透明度の高い水の環境に住んでいるフロリダマナティーだって、濁った環境では同じことをするかもしれない。フロリダマナティーを目隠しして実験したらどうなるだろう……などということを妄想してしまった。

「あ、それは難しいかも」と菊池さん。

「マナティーは、胸びれがすごくよく動かせるんで、目に何かついていたら自分で取っちゃいますね。頭に吸盤で加速度ロガーをつけて、頭の動きから採餌行動が取れるかテストしたことがあるのですが、小さいロガーを吸盤で着けたら、パーンと一発で胸びれではたいてとられちゃいました。これがアザラシとか毛のおおい生き物なら、毛にしっかりつけるからなのかうまくデータが取れてます」

 実は、ここで、さりげなく重要なテーマが顔を出した。