第5回 アマゾンマナティーは水中で「ぐるぐる回る」

「放流した場所から、2個体は、別々の方向に泳ぎ去ったんですが、どちらも、水面下でぐるぐると円を描くように泳ぎつつ、徐々に徐々に移動しているんですね。最初は何かのエラーじゃないかと思ったんですけど、何度計算して、検証してもちゃんとそうなるんです」

 論文に掲載されている図表を見れば一目瞭然だ。1頭目はざっくり東に泳ぎ去り、2頭目は西に泳ぎ去った。方向は別でも、はっきりした共通点があった。それぞれ「ぐるぐる」しながら進んだということだ。1頭は時計回り、もう1頭は反時計回りを常に続けていた。特に2頭目の放流個体がとある区間で取っていた泳ぎ方を拡大すると、本当に目を瞠るばかりにぐるぐるである。

放流した2頭の行動記録。(a)の矢印は放流した地点で、1頭は東に(濃い線)、もう1頭はざっくり西に泳いだ(薄い線)。(b)は西に泳いだ個体の(a)の長方形の部分を拡大したもの。方向は異なっても、どちらも(b)のように「ぐるぐる」と回るように泳いでいた。(Mumi Kikuchi et al. , Journal of ethology, 30, pp187-190, 2011.より)
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 さらにこれは、2次元だけでなく、3次元でみてもそうだ。水面から8メートルほどの水深まで潜ったあとで、ふたたび水面に戻ってくる一連の流れの中でも、やはりぐるぐる回転する行動が顕著である。

西に泳いだ個体の放流直後の行動を3次元的に描いた図。矢印が放流地点で、58秒後にいったん底に着き、110秒後までを図に描いた。やはりぐるぐるしている。(Mumi Kikuchi et al. , Journal of ethology, 30, pp187-190, 2011.より)
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「他のマナティー研究者が、こんな行動見たことないと言うんです。その時は吸盤でタグをつけてたので、タグが回ってたんじゃないかとかも言われました。でも、吸盤が回ったら、その段階で外れちゃいますから、それはないと。そんな行動、見たことない、とアメリカの研究者に言われても、アマゾンマナティーの行動なんて誰も見たことがないんです。フロリダマナティーみたいに、水中の行動が見えるわけじゃないですから」

 論文に対する反応も、学会発表での反応も、「は? なにそれ?」というようなものだったという。そもそも、マナティーやジュゴンの研究は、アメリカ(フロリダマナティー)にせよオーストラリア(ジュゴン)にせよ、保全生物学的な関心が中心で、個体数の増減とか、繁殖率だとかをウォッチする方面にリソースを割いている。生息地での行動に関心がないわけではないだろうが、研究としては二の次だ。これまでに、バイオロギングの手法で野生のマナティーやジュゴンが調べられ、きちんと論文として発表されたことはないそうだ。だから、「そんなの見たことない」と言われても、正直、困ってしまうのである。

 では、その行動が正しく解析できているとして、どういう解釈がありうるだろうか。