生き物相手のフィールドワークをしている人の中には、特定の生物を徹底的に研究していく方向性の人と、生態系全体の話だとか、違う場所の似た生物だとか、縦横無尽に研究対象を展開していって何がしかの法則性を見出していこうとする人たちがいる。もちろん程度の違いではあるが。前者はその生物へのこだわりや愛着が強いのかも知れないし、後者はもっと「大きな絵」を描きたいと思っているのかもしれない。

 京都大学野生動物研究センターの菊池夢美さんは、まさに前者だ。学部生時代から、十数年、ひたすら「マナティー、マナティー」と言い続け、マナティーで博士号を取って、マナティーで研究員のポストを得、マナティーの研究を重ね、マナティーの野生復帰プロジェクトに尽力している。

“マナティー研究者”の菊池夢美さん。
[画像をタップでギャラリー表示]

 日本ではマイナーな生き物だけに、「なぜ?」と感じる人も多いと思う。その経緯は、「言い続ければ引き寄せられるマナティーの縁」といった感じなので、本人に少し語ってもらおう。まずは学部生時代から。

「動物は好きだったので、日本大学の動物資源科学科に入ったんですが、その名のとおり畜産系の勉強が多くて。自分としては何か野生動物の研究をしたいのに、どうすればいいか分かりませんでした。今、水生哺乳類の研究をしているので、イルカも好きなんだろうと思われるんですが、それも違ってましたね。水族館でイルカショーとか見ても、イルカのジャンプは確かにすごいし、笛に合わせて様々な芸をするので賢いのですが、それを見ても大きな感動はありませんでした。魚類について知識もなかったので、水族館へ行って何かを見たいという欲求もあまり無かったです。でも、たまたま観光で沖縄に行って、美ら海水族館にいるアンティリアンマナティー(アメリカマナティーの亜種)を見た瞬間に、あ、これだ、と思って」

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る