第4回 「あ、これだ」と思ったものの研究者になるには

 あ、これだ、という感覚は、本人にも説明不能。尻尾が丸くて可愛いとか後付けの説明ならいくらでもできるが、研究者人生と密接に結びつくほどの出会いになったのは、菊池さんが、その感覚を流してしまわずに勉強を始め、粘り強く(時にはしつこく)、「マナティー、マナティー」と言い続けたからだ。

「出会いは94年くらいだったはずなので、まだインターネットがそれほど発達していないんです。だから、図書館でまず本を探して、マナティーの本がほとんどないと分かったので、次は論文検索の仕方を教えてもらって、論文を読むところから始めました。でも、私が知りたいマナティーの行動生態についての論文が、そんなになかったんです。視力とか、視細胞がどうで色覚がどうなっているとか、解剖学的なこととか、マナティー保護にかかわる個体数の推定だとかばかり。知りたいことと違ったんですよね」

 では、自分でやるしかない、と思っても学部生にツテがあるわけでもない。たまたま沖縄でジュゴンが漁網で混獲されて問題になった時期で、ジュゴンの類似動物として、同じカイギュウ類のマナティー(もちろん美ら海水族館で飼育されているもの)を使って、網状の障害物をどの程度認識できるのかを調べる水産庁の委託実験をする人を探していると聞きつけた。それも、大学の別の学科(海洋資源学科)の先生に「マナティーをやりたい」と直訴したところ、ちょうどその先生のところに他大学から照会が来たところだったという絶妙のタイミングだった。

鼻の穴を開けて呼吸するところ。
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「ちょうどエサに誘われる魚のように、すぐに『やります!』と食いつきました。でも、まず実験やる前に水族館で実習やる? って声をかけてもらったので、『やります!』って言って、飛び込みましたが、結構大変でした(笑)。若い体力でなんとかなりましたが、今はいろいろと衰えたので無理かもしれません。沖縄の真夏の炎天下での作業なのでとにかく暑いんですよ。朝は、イルカショーに向けて冷凍の魚を切って、バケツの中でとかして、ショーの前に運んで。マナティーの世話は、餌の野菜を切ったり、食べ残ったエサを回収したり。実習しながら実験の相談もさせてもらって、その後実験を開始しました。水族館の開館前と閉館後の実験で、その間は引き続き実習時のようにお仕事を手伝わせてもらってましたね」

 結局、その時の委託実験にさらに何回かの追加実験を行うことで、卒論とした。後に英文の専門誌に、マナティーの障害物認識行動についての論文として発表する基にもなったから、内容の濃い実験ができたのだろう。

 その結論はというと──