第3回 アマゾンマナティーの「野生復帰」に挑む

 ぼくが参加したマナティーの捕獲調査を実施したのは、国立アマゾン研究所(Instituto Nacional de Pesquisas da Amazonia、略してINPA)という組織だ。

 アマゾンの玄関口ともいえるマナウス市に本部を置く研究機関で、1952年の設立だから、相当、歴史がある。アマゾン熱帯地域の動植物・環境・生態学の研究を行うのが本来の目的だが、敷地の一部を「科学の森」(Bosque da Ciencia)として公開しているので、市民にとっては動物園のような位置づけでもある。森の中の小路を散策しながら「野生」のリスザルや絶滅危惧種のフタイロタマリン、様々な鳥や、保護・飼育されているオオカワウソやアマゾンマナティーに出会える素敵な場所だ。

国立アマゾン研究所の「科学の森」。
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 INPAは、とてもたくさんのプロジェクトを展開しており、そのうちいくつかは日本との共同で行っている。マナティー研究者の菊池夢美さんは、そのうちのひとつ「“フィールドミュージアム構想”によるアマゾンの生物多様性保全プロジェクト」のメンバーだ。日本側としては、監督省庁をまたいだ、文科省系の科学技術振興機構(JST)と、外務省系の国際協力機構(JICA)が共同で実施する画期的なもので、SATREPS(サトレップス、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)という複雑な名前の枠組の中で遂行されている。

 フィールドミュージアムというのは、街中に建物としてドンと博物館を作るというのではなく、自然観察研究施設と保護区をセットにしたものを各地に作って結んでいく、というものだ。フィールドそのものを博物館に見立て、エコツーリーズムや調査研究のバランスをとりつつ、生態系保全の方法を確立していこうという立派な目的が掲げられている。

 当面、目指しているフィールドミュージアムの概念図はこんなふうだ。

フィールドミュージアムの概念図。
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 これは、マナウスのINPA(右半分)のほかに、マナウスから60kmくらい離れたクイエイラス川にできる予定のリサーチステーション(左半分)とが、一緒に描かれている。国立アマゾン研究所に来た人は、遠隔カメラなどの技術で、都市に居ながらにしてリサーチステーションの様子を見ることができる。一方、リサーチステーションを訪れた人は、アマゾンの多様な生物をその生息地で観察して学ぶことができるし、さらにディープなエコツーリズム体験もできる。

 そんな中で、マナティーは、象徴的な役割を期待されている。研究所にすでにある飼育水槽のマナティーをリサーチステーションに設置する生け簀(Floating tankなどと呼ばれている)に移動し、アマゾン川の環境に慣れさせる。そして、やがて自然な環境に戻す流れを確立し、それ自体、啓発活動の核にしていこうという構えだ。菊池さんが、専門家として、ここにいる大きな理由の1つが、これだ。