第1回 アマゾンマナティーに会いに、アマゾンへ

「わたしだって、自分ではなかなか見つけられないですからね」となぐさめてくれるのは、京都大学野生動物研究センターの菊池夢美(きくちむみ)研究員。今回は、菊池さんの招きで、彼女の「研究室」といえる、アマゾンのフィールドにお邪魔している。2007年からアマゾン通いをしている菊池さんですら「自分ではなかなか」というのだから、ぼくが分かるはずがない。

京都大学野生動物研究センターの菊池夢美さん。
[画像のクリックで拡大表示]

 いくつか理由があるけれど、ひとつは、呼吸間隔の長さ。短くても数分、長いと20分近くにもなる。昼間の暑い時間帯は、あまり活動的ではないらしく、呼吸間隔も長くなりがちだ。

 そして、もう一点。呼吸の仕方自体が地味だ。すーっと鼻先だけを出して、ことを済ますとすぐに潜ってしまう。イルカのようなブハッ! という音が聞こえたりしないし、水面に波紋すらほとんど起こさない。一方、同じ湖の中にいる巨大魚ピラルクは水面をバシャッと叩くような行動をしばしば取るので、そっちの方がよほど目立つ。ぼくは、その都度、「あ、マナティー……」と思いつつ、周囲の人たちがなにも気にしていないのを見て、ピラルクだったと知るのだった。

 ディオゴが手に持った無線機に、突然、受信があった。

 ポルトガル語なので、ぼくには意味が分からないが、緊迫した雰囲気だけは伝わってきた。

「入り江の中にいるのを確認したみたいです。始まりますよ」と菊池さん。

 湖に浮かべたボートの上で待機していた漁師さんたちが、船をこぎ出し、するすると漁網をおろしていく。ほんの数分で、入り江を「封鎖」できた。

 アマゾンマナティーを捕獲するためだ。

[画像のクリックで拡大表示]

 この湖にいるマナティーたちは、幼い頃に母親を密猟で殺されたり、漁網に混獲されて衰弱するなどして、保護が必要だったもので、いずれは野生に戻されることになっている。湖に来る前に、マナウスにある国立アマゾン研究所の水槽で飼育されていたものもいる。湖は、野生の生息地に放流するまでの「半野生」とでもいうべき環境だ。

「この湖で何年か生活することで、アマゾン特有の雨季と乾季の水位変化ですとか、餌植物を自力で摂餌することを学んでもらってから放流しようという計画です。次の放流は2016年1月の予定で、その前にこうやって捕獲して、健康状態を確かめています。4頭くらい、状態がいい個体を選んで放流することになると思います。私たちはこれをソフトリリーシングと呼んでいます」

 というのが、菊池さんの説明。菊池さんは、日本もかかわっているこの一大プロジェクトに日本側から参加している研究者代表のような立場だ。一研究者としては、放流直後のマナティーの行動を詳細に把握することで、野生への適応評価や飼育の影響などを調べることになっている。