「3.15という日付が、我々、富士山の研究者の間ではよく言われています。東北の地震は3.11でしたけど、その4日後に富士山のちょっと南側でマグニチュード6の地震が起こったんですよ。余震というか、別のプレートでの話なので、誘発地震と言われるものです。この地震でマグマに影響が与えられて、それで活発化して噴火が起こるんじゃないかっていう懸念があったんです。それでシミュレーションをしてみて、計算の結果、20キロくらい下にあるマグマ溜まりをギュッと押したような、少しひねった感じの力が加わったと分かりました。圧力は1.6メガパスカルぐらい。多分それじゃ噴火しないな、そこまで大きくないなっていうのが結論で、一応、論文には書いてまとめています」

東北地方太平洋沖地震による富士山周辺への影響(最大主応力分布)。富士山のマグマ溜まりに16気圧ほどの圧力が加わったという。
東北地方太平洋沖地震による富士山周辺への影響(最大主応力分布)。富士山のマグマ溜まりに16気圧ほどの圧力が加わったという。
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 1.6メガパスカルといわれても、ぴんとこないが、1気圧がだいたい1000ヘクトパスカルだということを考えでざっと考えると、1.6メガパスカルは16気圧くらいだ。いろいろ調べてみたら、航空機(ジャンボ機)のタイヤの空気圧がこれに近いと分かった。かといって火山の噴火との関連について示唆を与えてくれるわけでもない。150メートルの深さの海底での水圧は16気圧のはずだから(大気圧1に対して10メートルごとに1気圧増える)、数十キロ下の地中の圧力に比べれば、小さなものなのだろう。

 では、どれだけ圧力がかかれば、噴火につながるのだろう。

「そこが、難しいところで、あくまでも我々が計算できるのは、マグマの入れ物を外からどれだけ叩いたのかっていうことだけです。本当は入れ物の中にあるものが、どれだけ噴火したがってる状態にあるかっていうことも重要で。それを見積もる術を、今一生懸命探してるとこなんですが、いずれにしても、この誘発地震の影響は、大きくなさそうだということでよいと思っています」

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つづく

※第6回「だから火山研究は面白い」は明日10月7日公開の予定です。

藤田英輔(ふじた えいすけ)

1967年、島根県生まれ。理学博士。防災科学技術研究所地震・火山防災研究ユニット総括主任研究員。東北大学連携客員准教授。山梨県富士山科学研究所特別客員研究員。1993年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、同年防災科学技術研究所入所。入所以来、火山観測網の運用やそのデータ解析、数値シミュレーションなどにより火山噴火のメカニズムの解明についての研究に従事。近年は特に地震・火山噴火の連動性に関する評価や地下でのマグマ移動現象の解明について取り組むとともに、欧米やアジアの火山コミュニティーとの連携強化に尽力している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)(『雲の王』特設サイトはこちら)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、『雲の王』と同じく空の一族の壮大な物語を描いた『天空の約束』(集英社)、ニュージーランドで小学校に通う兄妹の冒険を描いた『続・12月の夏休み──ケンタとミノリのつづきの冒険日記』(偕成社)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。2015年10月に有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を開始した。

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