「ああ、それはですね」と藤田さんは、手元にあった本を取った。

「この本って、表紙と裏表紙の間をぎゅうっと押しても別に何も起きませんけど、背表紙とその反対側(いわゆる小口(こぐち))をこうやって押すと、ページの間にすき間ができますよね。ちょうどそれと同じで、プレートなどによって押されてすき間ができやすくなっているところを割りながら、上がってくるというような感じなんですね。一番割れやすい方向にピッと割れて、そこを板状になって上がるというような感じになってきます」

本の背と小口を押すとできる隙間のように、プレートなどによって押されてできる弱い部分を割りながらマグマは板状に上がってくるという。
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 へえっ、と思う。

 地面の下のマグマは、周囲の岩盤をドロドロ融かすなりなんなりして、まっすぐに地表を目指すようなイメージを抱いていた。だいたい、世の中に出回っている「マグマ溜まり」「火道」「噴火口」などを図示したものでは、まっすぐに描かれていないだろうか。しかし、あれはあくまで模式的なもので、実際には、岩盤を板状にバリバリ割りながら上がってくる。これは、ぜんぜん違うイメージだ。

「浅間山とか桜島とか阿蘇山とか、もう常にマグマが上まで来ているところは、安定した火道ができちゃっていて、そこを使って上がるんですけど、その火道自体も、もともとは割れやすいところをベースにしてますので、本当にきれいな円筒になってるとは思わないんです。だいたい、レンズ状みたいなものになっていて、そういったところを上がってきやすいんですね。これは直接は見られないんですが、古い火道が地面に出てくると、まわりが風化してもマグマの方が固いのでそこだけ残って、こんな形で上がってきているんだと分かります」

一直線ではなく、マグマは板状に上昇する。角度もつくので挙動は3次元的だ。
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 また箱根の場合、マグマが直接来るというよりも、地下のマグマ溜まりの熱が伝わって高温高圧になった熱水が上がってくると考えられているそうだ。たしかにぼくたちが知っている箱根の光景は、マグマがドロドロ出てくるのではなく、蒸気が噴き出すものだ。

「さらにGNSS観測といって、国土地理院がやっているものなんですが、基準点どうしの距離の伸び縮みを見ることで地殻変動が分かる、と。これは衛星から見た画像でも確かめられます。合成開口レーダーというものを持っているいわゆるSAR衛星で見ているんですが、黄色から赤と青っていう方向が、衛星と地面の間が縮むという、要するに地面が膨張しているということになります。で、ちょうどその大涌谷の付近で膨張しているのが、衛星できれいにとらえられてます。毎日、人工衛星が上を飛ぶという訳にはいきませんし、2週間ごとのデータを解析するくらいの頻度で可能です」

SAR衛星で解析した箱根山の地殻変動の推移。下段中央のカラーバーにあるように、山の膨張と収縮を色の変わり方で表している。たとえば、黄色→赤→青の変化は膨張(=衛星との距離は縮小)。日付はデータを比較した2つの時点。(画像提供:藤田英輔、PALSAR-2データの所有権はJAXAに所属)
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