私はディスプレイの画像を指差し、130億年前という古代の宇宙なのだが、こんなに大きな天体を見つけてしまったことを彼女にまくしたてるように伝えた。最初はキョトンとしていたジャニスさんも状況を一通り理解すると、「うわ、おめでとう。それはすごい発見ね!」と返してくれたのだった。

NB921-C-36215のケック望遠鏡の分光データ。9230Å付近の強いシグナルがライマンアルファ輝線。
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 その後、邪馬台国の女王「卑弥呼」にあやかり、NB921-C-36215天体を「Himiko」と名付けた。名前の由来は、日本のSXDS天域(連載第2回参照)で見つかったこと、130億年前という古代宇宙にありながら一際目立つ天体であったこと、さらになぜこんなに巨大であるかが謎だったことによる*2。

*2 当時、Himikoは129億年前の宇宙で見つかったと発表された(報道資料12)。129億年という値は当時広く受け入れられていた宇宙論パラメーター(宇宙年齢として137億年を与える)を使って計算された値である。現在はより高い精度で宇宙論パラメーター(宇宙年齢として138億年を与える)が求められており、これに基づいてHimikoがあった時代を計算すると130億年前になる。本連載では、現在の宇宙論パラメーターで計算した年代や距離を一貫して用いる。

 それにしても、この不思議な天体Himikoの正体は何なのだろうか? さまざまな可能性が私の頭をよぎっていった。

大内 正己(おおうち まさみ)

1976年、東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。アメリカ宇宙望遠鏡科学研究所ハッブル・フェロー、カーネギー天文台カーネギー・フェローを経て、現在、東京大学宇宙線研究所准教授。東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の科学研究員を併任。研究テーマは、宇宙史初期、銀河形成、宇宙の大規模構造、観測的宇宙論。平成19年度日本天文学会研究奨励賞、平成26年度文部科学大臣表彰若手科学者賞などを受賞。平成25年にBeatrice M. Tinsley Scholarに選出。著書に『宇宙の果てはどうなっているのか? ~謎の古代天体「ヒミコ」に挑む』(宝島社)や『宇宙』(小学館の図鑑NEO)などがある。

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