ハワイ島を離れると、ロサンゼルス近郊のパサディナ市にある自宅に戻ることなく、ロサンゼルス国際空港で飛行機を乗り換え、次の観測出張先である南米のチリへと向かった。その後も国際研究会や大学訪問、すばる観測などの出張が延々と続いた。その間、カーネギー天文台のオフィスで仕事をする時間はほとんど取れなかった。この忙しい時期に、簡易解析ですでに駄目だと思い込んでいたデータを解析する、などという考えは出てこなかった。

ロサンゼルス国際空港。カーネギー天文台で勤務していた時は観測や研究会のために平均して1~2週間に一度利用していた。自宅に戻らず、ハワイ、チリ、ヨーロッパへと連続で出張することもよくあった。1カ月の移動距離を総時間数(約700時間)で割って求めた、平均移動速度が毎時70キロに達した月もあった。ちなみに何回も長時間フライトが続いたとしても、研究費で買ってよい航空券はエコノミークラスの座席だけなので身にこたえる(写真:RobAn
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 出張がひと段落ついたのは、年が明けて2月頃だった。この頃からケック望遠鏡の分光データの本格的な解析にとりかかった。細心の注意を払ってデータを解析する。そして、2月20日に、すべての解析が終わって、最終データがディスプレイに映し出された。現れたのは、短波長側が削れ、長波長側に尾を引く非対称な形をしたシグナルだった。130億年前の宇宙で一般に見られる非対称なライマンアルファ輝線にほかならない。「本物だ!」私は目を見開いてディスプレイを凝視していた。しかし、いたたまらなくなり立ち上がって叫んだ「ああーーー」。隣室にいた同僚のジャニス・リーさんが、奇声を耳にするやいなや、私のオフィスを心配そうに覗き込む。「Are you OK, Masami?」。

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