そもそも、すばる望遠鏡のSuprime-Camでふつうに夜空の画像を撮るだけで数万個もの天体が見える。その99%以上は130億光年より手前の星や銀河である。望遠鏡で130億光年彼方を探ると、地球から130億光年辺りまでの間にある無数の天体も一緒に見えてしまうからである。手前にあるたくさんの天体のなかから、約130億光年彼方の天体を選び出すには工夫が必要だ。そこで、連載第2回で名前だけ紹介していた、狭帯域フィルターと広帯域フィルターの画像データが重要になる。天文学者はこれら二つの画像における明るさの違いから天体を見分ける。ちなみに、この明るさの違いのことを天文学者は「色」とよんでいる。

 遠い天体が発した光は、膨張する宇宙空間を旅するうちに波長が伸びていき、赤くなる。これは赤方偏移と呼ばれる現象だ。赤方偏移した天体の水素が放つ光、ライマンアルファ輝線(波長1216Å)が狭帯域フィルターに入ると明るく見える(下の図の赤い丸で囲まれた天体)。これが130億光年彼方の天体である。しかし、この狭帯域フィルターには手前の天体の酸素が放つ光、酸素輝線(波長4000-5000Å程度)なども入るため、このような天体を間違えて選んでしまうことがある(下の図の青い丸で囲まれた天体)。手前の天体を間違えて選んでしまう確率はふつう20%前後だが、解析された画像データの質が低いと100%になることもある。つまり、130億光年彼方の天体だと思っていたものが、すべて手前の天体だったということもあるのだ。このような間違えを避けるため、B計画で行ったような分光観測により(連載第3回参照)、色で選んだ天体までの距離を測る必要がある。ちなみにB計画のときは、共同研究者の秋山正幸さんによる分光観測のお陰でこの問題を解決していたのである。

約130億光年彼方の天体と手前の天体の例。左図と右図は、同じ天域に対して、それぞれ狭帯域フィルターと広帯域フィルターをカメラに付けて撮影した画像。画像上の殆どの天体は、狭帯域フィルターと広帯域フィルターで同じくらいの明るさに見える。つまり、これらの天体はライマンアルファ輝線が見られないので手前の天体である。一方で、赤丸と青丸で印を付けた天体は、狭帯域フィルター画像で明るく、広帯域フィルター画像で暗い。赤丸は約130億年彼方にある天体で、ライマンアルファ輝線が狭帯域フィルターの画像に入っているため、広帯域フィルターの画像よりも明るく見える。青丸は手前の天体であるが、酸素輝線などがたまたま狭帯域フィルターの画像に入り込んでいるため、赤丸の天体と同じような見え方になる。青丸のような天体が間違えて選ばれてしまうことがあるので注意する必要がある。
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 ならば分光観測して距離を測ればよろしい、ということになる。しかし分光観測は、文字通り光を(波長ごとに)分けて色を詳しく分析する観測である。130億光年彼方の天体は非常に暗く、すばる望遠鏡で画像を撮るのでさえ、長い時間がかかる。そこに、天体からの光を分けてしまうような観測をするのだから並大抵のことではない。そこで私はすばる望遠鏡よりも口径が大きく、高い分光観測の能力がある、ケック望遠鏡(カリフォルニア工科大学とカリフォルニア大学などが運用)で観測すべく、提案書を書いた。その結果、私たちの観測計画は認められ、2007年11月5~6日に2晩の観測時間が割り当てられた。

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