第4回:手探りで調べ始めた130億年前の宇宙

 大学院で博士の学位を受けた後の数カ月間、研究員として東京都三鷹市の国立天文台に勤めた。その後、2004年夏に米国メリーランド州にある宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)へと研究活動の場を移した。STScIはハッブル宇宙望遠鏡の運用と科学研究を行う研究機関である。日本はハッブル宇宙望遠鏡計画に出資していないため、その運営母体であるSTScIも米国とヨーロッパからの資金で賄われている。当然、研究者はもとよりサポートスタッフの大半は米国とヨーロッパの人たちだった。全く関係の無い、日本人である自分が、給料をもらいながらここで研究をするのは少し不思議な気がした。

米国メリーランド州にある宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)。ハッブル宇宙望遠鏡の運用と科学研究を行う本部である。私がいた2000年代半ばくらいまでは、この建物の中にハッブル宇宙望遠鏡へコマンドを送る指令室があった(その後、ゴダード宇宙飛行センターに指令機能を移転)。(写真:John Bedke & Skip Westphal, STScI)
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 STScIに移ってからはハッブル宇宙望遠鏡の観測研究を行う傍ら、すばる望遠鏡のSuprime-Camを用いた研究も続けた。連載第3回で紹介したように117億~128億光年彼方の宇宙の探査(B計画)は一区切り付いた。これによって、当時の観測限界である130億光年彼方の宇宙を狙った探査(A計画)の準備が整ったのである。

 A計画の目標は、B計画で見つかったような大規模構造や原始銀河団といった構造が、観測限界の130億光年彼方でも存在するかどうかを明らかにすることだろう、と当時の私は考えていた。もちろん、128億光年と130億光年は比較的近いので、宇宙の様子としては大きく違わないかもしれない。もし発見されたとしても、同じような構造がほんの少しだけ遠く(つまり昔の時代)に見つかるという程度だろう。そうなるとあまり面白い研究にはならないかもしれない。ただ、当初からやりたいと考えていたのがA計画だ。そして、A計画のためにB計画をやってきたのである。これまで積み上げてきた研究の総決算として、やはり最も遠く(130億光年彼方)を狙うA計画を完了させたいと思った。

 2005年春、A計画の観測提案書をハワイ観測所(すばる望遠鏡)に提出した。これまでと同じように、ハワイ観測所において、厳正な審査が行われたのだが、やはりB計画の実績があると違う。A計画の提案書は高く評価されて、4晩の観測が2005年秋に認められた。

 2005年10~11月、ハワイ観測所に赴いて観測を行った。しかし、天候はあまり良くなく、目標の半分くらいしかデータが取れなかった。悪天候で観測が計画通り進まなくても、観測時間の補てんなどはしてくれない(連載第2回参照)。そのため、残り半分のデータをとるべく、もう一度観測提案書を作成・提出した。次に観測が認められたのは翌年2006年10月末だった。