このように書くと疑問をもつ読者もいるだろう。そもそも夜空は暗いのだからそれより暗いというのは一体どういうことか? という疑問である。まず、街灯りのような人工光が少ないマウナケア山頂といえども、夜空は真っ暗というわけではなく、(1平方秒当たり)20等級くらいの明るさがある*1。一方で、私たちが狙う100億光年を超える遠い天体の明るさは25等級かそれより暗い。5等級以上の違い、つまりマウナケアの夜空よりも2けた以上も暗いことになる。

*1 夜空が明るい原因は、街灯りばかりでなく、大気中のちりによる散乱光や大気の電離層がもたらす光、太陽系を漂うちりの散乱光などがある。

 私たちは、夜空よりもずっとずっと暗い天体を狙うという、きわめて難しい観測をすばる望遠鏡の力を借りて行ったのである。

マウナケア山頂の夜空。右下のオレンジ色の横筋は雲海の下の街灯り。(画像:Canada-France-Hawaii Telescope, website: http://www.cfht.hawaii.edu/en/
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 このようにして作った最終画像に対して、コンピューター上でSExtractor (セクストラクター)という検出・測光のプログラムを走らせる。SExtractorは、画像のなかから天体を見つけて、その明るさを測るものである。もちろん、SExtractorも完璧ではなく、装置の不具合などで画像がおかしくなっている部分を誤って天体と見なしてしまうことも多い。そのため、最後は画像のすべてを目でチェックしなくてはならない。検出された30万個くらいの天体が写る画像を少しずつディスプレーに表示させ、上から下までなめるように見る。おかしな天体があれば漏らさず取り除くのである。この作業をしていると目が乾燥してくる。悲しいことは何もなくても自然と涙が頬を伝う。1週間以上、寝ても覚めてもコンピューターのディスプレーに向かって、やっとチェックが終わるほどの作業量だ。

 目でチェックした天体に対して、狭帯域フィルターのデータとSXDSプロジェクトの広帯域フィルターのデータを合わせて、天体の色を測定する。色の情報から、一番遠い128億光年彼方にありそうな銀河だけを選びだすと約500個も見つかってしまった。これが探査した広さ(差し渡し5億光年くらい)の範囲に広がっているのである。それまでの研究の10~100倍の個数と広さ。私は、予想通りのすごいサンプルができたとほくそ笑んだ。

 これらの銀河の位置をコンピューターのディスプレー上に描き出すと、128億年前の宇宙の地図が浮かび上がった。地図には銀河が筋状に並んでいるのだが、所々、銀河が全く存在しない部分も見られた。128億年前の宇宙にあった大規模構造だな、と直感的にわかった。128億年も前の大規模構造は、まだ誰も見つけていない。面白いものが見つかったと思った。

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