第3回:苦難のデータ解析から、最遠の銀河団発見へ

 ただ、この地図の下側に、たくさんの銀河が集まっているのは怪しげだった。最初は、この部分だけ偽物の天体がたくさん見えてしまっているのかな、と考えてデータをもう一度確認してみた。データに対していろいろなテストをしてみたが、データ自体はおかしくなっていない。でも、にわかに信じがたいほどの数である。そこで、共同研究者の秋山正幸さん(当時、ハワイ観測所の研究員)に、この地図の下側にある天体をすばる望遠鏡で分光観測してもらった。これにより、天体の真偽を確かめながら、正確な距離を測ることができる。その結果、観測された22天体のうち19天体(およそ9割)が本物の128億光年彼方の銀河だとわかった。そして、距離が分かった銀河の3次元分布を描き出してみた。すると直径300万光年という狭い範囲に、6個の銀河が群がっていた。

 「原始銀河団だ!」 このようにして、銀河団の祖先とも言える銀河集団を128億年前の宇宙で発見したのである*2。私は、すぐさま発見を報告する論文を発表した。最も遠い銀河団。それも宇宙史に先駆けて出来た原始銀河団。これは一般の人にもわかってもらえる面白い結果に違いない。私は研究員として勤務していた米国から帰国し、2005年2月16日に国立天文台(すばる望遠鏡の広報)を通じて記者発表を行ったのである。

*2 2005年当時、この原始銀河団は127億年前の宇宙で見つかったと発表された(当時の発表はこちら)。127億年という値は、当時広く受け入れられていた宇宙論パラメター(現在の宇宙年齢として137億年を与える)を使って計算された値である。現在はより高い精度で宇宙論パラメター(現在の宇宙年齢として138億年を与える)が求められており、これに基づいて原始銀河団があった時代を計算すると128億年前になる。本連載では、現在の宇宙論パラメターで計算した年代や距離を一貫して用いる。

128億年前の宇宙の地図。黄色い点が128億光年彼方にある約500個の銀河の位置。赤線がこれら銀河の密度等高線。背景は私たちの観測で得られた画像。地図の下側のA、Bと書かれた部分に多くの銀河が群がっている様子がわかる。比較のために、当時行われていた深宇宙探査の広さを左下の四角形で示した。この比較からわかるように、私たちの観測によってけた外れに大きな地図を128億年前の宇宙で描くことができたのである。(イラスト: Ouchi et al. 2005, ApJ, 620, L1より改変/転載。This figure is reproduced by permission of the AAS.)
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銀河の群がりにある銀河の3次元分布図。上の図が奥行き方向の位置、下の図が画像上の位置を表している。赤丸で示された6個の銀河が最遠の銀河団に含まれる銀河であり、Aの位置に当たるものである。青丸で示された4個の銀河は最遠の銀河団に付随する構造でBの位置にある。それ以外の丸印は最遠の銀河団とは関係無い銀河。なお、数年後にこれよりわずかに遠い原始銀河団が発見されたため、この銀河団は現在では人類が知る最遠の銀河団ではなくなっている。(画像: Ouchi et al. 2005, ApJ, 620, L1より改変/転載)
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最遠の銀河団のカラー画像。印を付けた6個の天体が、最遠の銀河団に含まれる銀河。右側の枠内にある赤い点が、これらの銀河の拡大図。(提供:国立天文台)
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