第3回:苦難のデータ解析から、最遠の銀河団発見へ

 その頃、私は東京大学の大学院で研究生活を送っていた。24時間365日、ずっと研究をやらせてもらえる生活は充実感に満ち満ちていた。机の上のコンピューターに向かって、昼夜がわからなくなるほど研究に没頭していた。たまに目を窓の外にやると安田講堂の時計が見えた。時間の感覚が無くなってしまった私に、手を休めて食事やゼミに行くべき時間を知らせてくれる貴重な存在だった。

大学院当時の机からの眺め。ちょうど良い位置に安田講堂の時計があった。この時計はたまに止まることがあり、知らずに約束をすっぽかしてしまうことも。
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 そんな研究三昧の生活の中に、B計画(連載第2回を参照)のデータが舞い込んできた。私は連日コンピューターをフル稼働させてデータ解析に臨んだ。私たちの観測(B計画)による狭帯域フィルターの画像データに、SXDSプロジェクトで得られた広帯域フィルターの画像データを合わせると、これまでの同種の研究より10倍かそれ以上の大きいデータになる。来る日も来る日もコンピューターに向かい、データ解析を続けた。

 B計画の観測で得られたのは、Suprime-Camで撮影された画像データだ。Suprime-Camは巨大なデジカメのようなものだが、10個のCCDからなり、合計8000万画素にもなる。この画像データには、8000万画素の一つ一つの位置に対する数値が書かれている。数値の大きさは、その位置に来た光の強さを表す。そしてデータ解析にはさまざまな作業が必要になる。CCDの電荷読み出しの都合で付けられたバイアスを差し引いたり、画像の歪みや感度ムラを補正したり、星像の形を一様にするなど多くの手順を踏まなくてはならない。このようにして、装置や天候がデータに与える影響を最小限に抑え、観測した夜空そのものの状況を再現するデータに直していくのである。

Suprime-Camのデータの例。灰色の縦長の長方形が10個のCCDに対応する。所々短い黒い筋が入っているのは、CCDの画素が壊れている部分である。この図では、各画素において数値が高い部分(光が強い部分)を白色、数値が低かったりデータが無い部分を黒色で示している。Suprime-Camをはじめとした天文学研究専用のカメラは、巨大なデジカメのようなものである。しかし、一般のデジカメと違って、白黒で撮影される。これは極限まで感度と空間分解能を高めるためである。ちなみに色の情報が必要な場合は、フィルターを入れ替えて同じ天域をもう一度撮影しなくてはならない。
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 このような作業を経て、平均画像を作る。平均画像とは、夜空の同じ位置で撮った画像データ(連載第2回を参照)の各画素の数値の平均をとった画像のことで、これが最終画像となる。この最終画像は、ノイズが少なく、非常に暗い天体まで見ることができる。マウナケア山頂の夜空より1/100以下の明るさの、暗い天体をも捉えられる。