2003年春、当時大学院生だった私は新しい研究プロジェクトを立ち上げた。すばる望遠鏡の観測で手が届くなかで最も遠い宇宙を、これまでにない広さで調べる、というものである。目標は、最遠宇宙の天体地図を作ること、そして最遠宇宙での銀河の平均像を探ること。シンプルであるが、すばるに搭載されるSuprime-Cam(広角の主焦点カメラ)を使わないとできない、ユニークなプロジェクトだ。

 同様の研究プロジェクトはすでに行われていた。日本が主導する「すばるディープフィールド(SDF)」と「すばるXMM-Newtonディープサーベイ(SXDS)」である。これらは、SDFとSXDSと呼ばれる星が少ない天域に対して、すばるのSuprime-Camを使って高い感度で画像を撮り、遠くの宇宙まで調べようというものである。しかし、SDFプロジェクトでは領域が狭く、最遠宇宙の天体地図を作るには不十分だった。一方のSXDSプロジェクトは、領域は十分広かったが、最遠宇宙にある天体を見つけるのが困難だった。SXDSプロジェクトは、Suprime-Camに「広帯域フィルター」を取り付けて観測が行われた。これにより、遠方の天体を広い波長範囲でくまなく探すことができた。しかし、広帯域フィルターでは最遠の、つまり見かけ上非常に暗い天体までは検出できない。

 暗い天体を検出するには、観測できる波長範囲を犠牲にする代わりに感度を高めることができる、「狭帯域フィルター」が必要である。しかし、そのようなデータを取る計画は当時なかった。そこで私は、Suprime-Camに狭帯域フィルターを装着してSXDS天域を観測し、すでに得られつつあったSXDSプロジェクトの広帯域フィルターの画像を組み合わせて、これまでにないほど広く、最遠宇宙の観測を行うことを考えたのだ。

すばるディープフィールド(SDF)プロジェクト(左上)と、すばるXMM-Newtonディープサーベイ(SXDS)プロジェクト(右上)天域の画像。それぞれの天域は、かみのけ座(左下)とくじら座(右下)の位置にある。両探査とも2000年初頭に日本主導で行われていた深宇宙探査プロジェクトである。本文に述べたA計画とB計画はともに、すばる深宇宙探査で最大領域を誇るSXDS天域(右上)で行われることになる。(提供:国立天文台)
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 当時、遠方宇宙の観測研究は発展途上の段階にあった。そのため、検出できる天体の限界(観測限界)は130億光年だった(現在の観測限界は132億~134億光年)。もっとも、観測限界の範囲内であっても130億光年というはるか彼方の宇宙を狙うのは難しい。大型望遠鏡のすばるでも、とても長い露光をかけないと天体からのシグナルを検出できない。観測時間がかかりすぎるそのようなプロジェクトをハワイ観測所(すばる望遠鏡を運用する国立天文台所有の観測所)が簡単に認めてくれるようには思えなかった。

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