第2回:最遠の宇宙へ向かう、はじめの一歩

 ガンマ線バーストとは、星の一生の最期に起こる爆発などによって、強いガンマ線を出す天体のことである。このような天体からは、ガンマ線に続いて可視光や赤外線などの光が出される。これらの光は、時間がたつにつれて弱くなってしまう。ガンマ線バーストからの光を捉えようとするなら、できるだけ早く望遠鏡を向けて観測を始めなくてはならない。このような事情から、重要なガンマ線バーストが起こった場合は、通常の観測を直ちに中止して、ガンマ線バーストの観測を優先するのが世界の天文台のルールとなっている。このような優先観測をTarget of Opportunity (ToO)観測と呼ぶ。私たちの観測は、ToO観測の発動により、直ちに中止される運命にあったのだ。

ガンマ線バーストをコンピューターで再現した画像。ガンマ線バーストという現象は、米ソ冷戦中の1960年代に、米国の核実験監視衛星によって発見された。地球で行われる核実験を捉えるはずが、宇宙の爆発現象を見つけてしまったのである。近年、ガンマ線バーストは132億光年という遥か彼方の宇宙でも発見されている。(イラスト:NASA / SkyWorks Digital)
[画像のクリックで拡大表示]

 観測は、天候が良く、望遠鏡やカメラが期待通りに動き、さらにはToO観測が入らないなどといったさまざまな条件がすべてそろわないと行えない。観測提案が認められたからといって、実際に観測ができるかどうかは保証されていないのである*1

 マウナケア山頂の夕暮れは美しい。標高4200メートルの雲の上で迎える夕暮れである。通常、夕暮れ時は観測準備に忙しいのだが、その日はのんびりとしたものだった。やがて夜になると、すばる望遠鏡はガンマ線バーストに向けられ、観測所のスタッフによってToO観測が行われた。私たちはその様子をただ眺めるしかなかった。夜空を見ると満天の星空。ガンマ線バーストの研究は面白く、重要だと頭でわかってはいるものの、やるせない気持ちが残る。

*1 ToO観測で観測時間が失われた場合は、例外的に観測時間分を補てんしてもらえる。しかし、すばる望遠鏡の観測予定は数カ月先までびっしり埋まっているので、ふつう補てん観測は翌年になってしまう。なお、悪天候や望遠鏡・装置の不具合のケースでは観測時間は補てんされない。これらの原因で観測時間を失った場合は、ふりだしに戻ることになる。つまり、翌年に観測提案書を出して、もう一度5倍の競争を勝ち抜かなくてはならない。

マウナケア山頂の夕暮れ。雲を見下ろしながら夜の帳が降りる。
[画像のクリックで拡大表示]