ちょうど3週間がたとうとしたころ、ようやく画像のゆがみの原因がわかり解決した。焦点面の傾きを制御するシステムでゆがみを取り除くことができたのだ。そして、次のテストに進むことができるようになった。このようにして少しずつではあるが、Suprime-Camがすばる望遠鏡の観測装置として立ち上がっていった。

 これで私の憂鬱の原因がすべて無くなったわけではなかった。ケック望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡を超える面白い観測研究を自分たちがすばる望遠鏡を使ってできるのかという不安である。確かにSuprime-Camは、ほかの望遠鏡にはない広角のカメラなので、ユニークな観測ができるかもしれない。しかし、感度は同程度かそれ以下。これまでケック望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡で見ているような天体が個数にして10~100倍になるだけである。これで何か新しい天体や現象を発見できるようには思えなかった。

 研究室の先生からも、この状況ではほかの望遠鏡で行われている研究にはかなわないだろうと聞かされ、いつも肩を落としていた。もちろん、広角カメラである分、限られた観測時間内で探査できる宇宙の範囲が広くなったり、検出される沢山の天体の平均をとって測定のエラーを小さくできたりといったメリットがあることはわかる。しかし、当時の私にはこのような能力が大きな発見につながるものだとは思えなかった。

 だがそれは杞憂だった。やがて訪れるいくつもの発見によって、私はすばる望遠鏡とSuprime-Camの力を思い知ることになる。

巨大望遠鏡の視野の大きさ比べ。すばる望遠鏡で得られた夜空の画像の上に、赤線で各望遠鏡の可視光カメラの視野の大きさを示した。いずれも2000年当時の状況。(その後、各望遠鏡には新しいカメラが搭載されたが、視野の大きさにおいて、すばる望遠鏡の優位性は健在である。)
[画像をタップでギャラリー表示]

大内 正己(おおうち まさみ)

1976年、東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。アメリカ宇宙望遠鏡科学研究所ハッブル・フェロー、カーネギー天文台カーネギー・フェローを経て、現在、東京大学宇宙線研究所准教授。東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の科学研究員を併任。研究テーマは、宇宙史初期、銀河形成、宇宙の大規模構造、観測的宇宙論。平成19年度日本天文学会研究奨励賞、平成26年度文部科学大臣表彰若手科学者賞などを受賞。平成25年にBeatrice M. Tinsley Scholarに選出。著書に『宇宙の果てはどうなっているのか? ~謎の古代天体「ヒミコ」に挑む』(宝島社)や『宇宙』(小学館の図鑑NEO)などがある。

この連載の次の
記事を見る