Suprime-Camと作業中の筆者(大学院生当時)。
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 大学院2年生となる2000年、私はSuprime-Camの装置試験のため、ハワイに来ていた。マウナケア山頂にあるすばる望遠鏡に向かう車に憂鬱な気持ちで乗っていた。何が憂鬱かと言えば、すばる望遠鏡は口径8メートルにもなる巨大望遠鏡ではあるが、それよりも大きいケック望遠鏡(口径10メートル)は既に観測開始から7年もたっていた。ケック望遠鏡からは華々しい観測成果が報告される一方で、自分たちは研究のための観測ができる状況ではなかった。何とも言えない無力感にさいなまれていた。

 この時、私はSuprime-Camの開発グループの一員として、毎日のようにマウナケア山頂のすばる望遠鏡に通い、試験を続けていた。当時の私はまだ知識も経験も無く、先輩の作業を見よう見まねで手伝っていた。例えば、カメラに入る10枚のフィルターはコンピューターによる遠隔操作で交換される仕組みだが、これが途中で詰まってしまうと画像が撮れず、貴重な観測時間が失われてしまう恐れがある。そのため、先輩たちとともに再現性テストをした。フィルター交換のコマンドを送っては交換に成功したかどうかを確認し、次にほかのフィルターで同じ作業をする。こういったテストを1セット100回として何度も繰り返す。このような地道な作業をしていた。

 マウナケア山頂は標高4200メートルと高く、富士山(3776メートル)をはるかに超える高地なので、空気が薄く、酸欠になる。物を持って運ぶだけでも息が切れるし、次第に頭も痛くなってくる。作業が終わると、山の中腹、標高2800メートルにあるハレポハクという天文学者が使う宿舎に戻る。このように毎日ハレポハクとマウナケア山頂を往復するのだ。

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ハレポハク。左はハレポハクの外観。右はエントランスホール。エントランスホールにはハレポハクに出資する国や地域の旗が掲げられている。中ほどに日の丸もある。ハレポハクという名前はハワイ語で「石の家」の意味。(提供:国立天文台)

 山頂での作業が2週間目に入ると、実際にSuprime-Camをすばる望遠鏡に装着して、夜空の画像を撮った。全体的にゆがんだ画像ばかりが撮れてしまう。原因がわからないので、思い当たる部分を直しては確認のためフォーカス合わせのテスト画像を撮る、ということを毎晩繰り返した。10日を過ぎてもゆがんだ画像の理由は分からなかった。ずっと空気が薄いところで生活してきたからか、軽い筋肉痛のような痛みを腕や足に覚える。乾燥のため何度も鼻血を出してしまう仲間もいた。

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