光は、この世で最も速くて、秒速30万キロで進む。人間の感覚では非常に速いように感じるが、巨大な宇宙ではとるに足らない。例えば、地球から太陽まではおよそ1億5000万キロ離れているので、光の速さでも約8分かかる。逆に言うと普段私たちが見ている太陽は8分前の姿だ。同じように10億光年、100億光年彼方の天体から届く光は、それぞれ10億年前、100億年前の天体の姿であり、昔の宇宙の様子を私たちに知らせてくれる*1

 遠くにある天体は見かけ上とても暗いので、観測でとらえるのが難しい。そのため、地球の大気の影響が少なく観測コンディションの良い高地や地球軌道上に、巨大望遠鏡を建設する。90年代以降に完成した巨大望遠鏡を使えば100億光年を優に超える宇宙の様子を知ることができる。言うなれば巨大望遠鏡は宇宙の過去に遡るタイムマシンなのだ。

すばる望遠鏡とケック望遠鏡。右側の銀色のドームがすばる望遠鏡(1999年完成)。2つの白く丸いドームが、2台のケック望遠鏡。右から順にケックI望遠鏡(1993年完成)、ケックII望遠鏡(1996年完成)。これら2つのドームを繋ぐ建物の左手にはピックアップトラックが数台止まっている。トラックと比べることで望遠鏡の大きさを実感できるだろう。(写真:Richard Wainscoat)
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 宇宙の歴史を探る研究は、巨大望遠鏡の先駆けとなるハッブル宇宙望遠鏡が1990年に、ケック望遠鏡が1993年に観測を始めてから、急速に進んだ。ハッブル宇宙望遠鏡とケック望遠鏡はともに欧米が建設したもので、日本の貢献はなかった。当然、日本の研究者が普通に使える望遠鏡でもなかった。日本人研究者にとっての巨大望遠鏡は1999年に観測が始まった(ファーストライトを迎えた)国立天文台のすばる望遠鏡になる。

 ちょうどその1999年に、私は大学院に入学し、研究の世界に飛び込んだ。私が所属した研究室では、すばる望遠鏡に搭載する主焦点カメラ(Suprime-Cam)を開発しつつあった。Suprime-Camは、非常に広角のカメラで、当時のハッブル宇宙望遠鏡やケック望遠鏡よりも大きい視野をもち、ほかの巨大望遠鏡にはないユニークなカメラだった。

*1 もちろん、昔の様子がわかるのは、遠く離れた宇宙だけだ。今私たちがいる場所の昔が分かるわけではない。しかし、数億光年かそれ以上の大きなスケールでは、宇宙はほぼ同じであることが観測で知られている。そのため、大きなスケールで、「現在の近場の宇宙」と、「過去の遠く離れた宇宙」を比較することで、宇宙の歴史を調べることができる。

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