最終回:より遠く、より昔の宇宙への挑戦

 私たちは、UDF12によって、究極的に高い感度を実現できたことに満足している。しかし、この事実は、現在人類がもつテクノロジーの限界に到達してしまったことを意味する。そうなると、ハッブル望遠鏡を超える新しい望遠鏡でも登場しない限り、宇宙の果てを目指した次なる観測研究はできないだろう、と諦めてしまう人もでてくるかもしれない。確かにテクノロジーは限界に達しているのだが、まだまだできることはある。その一つの例が、重力レンズ効果を使った研究だ。

 銀河団のように重い天体があると空間が大きく歪むため、これがあたかも巨大なレンズのような働きをする。下の図のような、遠方銀河Aとその手前にある銀河団Bを考えてみよう。Aから来る光線は、Bの重力場によって進行方向が変えられる。これによって、都合よくAから来る光が集められるのである。そのため、Aはこの効果を受けない場合よりも数倍、さらには条件がそろうと100倍以上も明るく見える。これが重力レンズ効果だ。重力レンズは、背後の天体の光を集めることのできる天然のレンズだ。天文学者はこれを指して、重力レンズ望遠鏡などと呼ぶ。

重力レンズ効果の概念図。遠方銀河をA、その手前にある銀河団をBとする。Bの重力場によって、Aから来る光が集められる。そのため、Aはこの効果を受けない場合よりも数倍、さらには条件がそろうと100倍以上も明るく見える。(画像:NASA/ESA、一部改変)
[画像のクリックで拡大表示]

 重力レンズ効果を利用したハッブル宇宙望遠鏡の大型計画として、ハッブル・フロンティア・フィールド(HFF)プロジェクトが進められている。HFFでは、宇宙で最も重い*2天体である銀河団に対して、ハッブル宇宙望遠鏡を向け、高い感度の観測を行う。そして、重力レンズ効果の力も借りて、銀河団の背後にある遥か彼方の暗い天体を検出するのだ。言わば、天然で最高の重力レンズ望遠鏡と、人工で最高のハッブル宇宙望遠鏡を組み合わせることで、UDF12のような高感度観測だけでは到達できない宇宙の果てにある未知の天体に挑むことができるのだ。人類の知恵と技術の粋を集めたプロジェクトと言えよう。

 HFFの観測は今なお続いている。初期のデータからは、本当にたくさんの結果が出てきている。最近、私の研究室の学生である石垣真史さんが非常に面白い発見をした。これについては、現在論文に投稿中なので詳細は控えたい。記者発表を計画しているので、近いうちに報道を通じてこの結果を目にする読者もいるかもしれない。

*2 重い天体の方が重力レンズ効果を得やすい。

ハッブル宇宙望遠鏡のHFFプロジェクトで撮られた銀河団のうちの一つMACSJ0717.5+3745。黄色やオレンジ色の天体の多くが、この銀河団に所属する銀河。青い天体の多くは、この銀河団の背後にある銀河で、重力レンズ効果で明るくなっている。またこれら背後の銀河は、重力レンズ効果で歪み、引き伸ばされた形に見えている。(画像:NASA, ESA and the HST Frontier Fields team (STScI))
[画像のクリックで拡大表示]