最終回:より遠く、より昔の宇宙への挑戦

 私が東京大学宇宙線研究所に着任してから5年が経った。志を同じにする国内外の学生や若手研究者が私の研究室に集まり、今では十数名が力を合わせて宇宙初期の謎に挑んでいる。優秀なメンバーに恵まれ、彼ら・彼女ら自身の手で驚きの発見がなされている。この研究分野においては、世界から注目される研究室へと成長した。

大内研究室のメンバー(平成27年度)(写真: http://cos.icrr.u-tokyo.ac.jp/member.html
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 私たちはヒミコの研究を進める中で出てきた、数々の疑問に挑んでいる。原始ガスからなる天体がどうなっているのか。さらには、宇宙がビッグバンで始まった138億年前からヒミコの時代(130億年前)までの8億年の間に何が起こったのかについても。なぜなら、初めて天体が生まれた時代がそこにある。いや、そんな能書きを並べずとも、より昔の宇宙にさかのぼりたい。その時代の宇宙を知りたい。

 より昔の時代を調べるには、遠方宇宙を見るのに適した波長で、非常に高い感度で観測すればよい。私は欧米の研究者、そして研究室の小野宜昭さんらと共にハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド2012プロジェクト(UDF12)を推し進めた。UDF12は、遠方宇宙にある星の光を最も効率良く捉えられる近赤外線の観測を行うものである。この波長域において、最高の感度を誇るハッブル宇宙望遠鏡 近赤外線カメラWFC3で観測を繰り返し、露光時間にして数100時間におよぶ画像データを得るものだ。これにより超高感度の観測を実現して、人類史上最も暗く遠い天体の検出を目指すプロジェクトである。私たちは、南天の星座「ろ座」にある、「ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド(UDF)」と名付けられた天域*1にハッブル宇宙望遠鏡を向け、ひたすら観測を続けた。その結果、およそ30等級の天体をも検出できる画像データを手に入れた。30等級というのは、七夕のおりひめ星で有名なベガの1兆分の1の明るさだ。宇宙の遥か彼方からやって来る、とても微弱な光まで捉えられた。

 これにより、私たちは131億~134億年前にある7つの銀河を見つけた。あまりにも暗いため、画像上ではシミのようにしか見えないのだが、大変貴重なサンプルである。これら7つの銀河はヒミコとは違い、非常に小さい。驚くべきことに半径にして1000光年にも満たないことが判明した。これは、現在の私たちが住む銀河系(天の川銀河)の数十分の1のサイズである。そして、これら7つの銀河は、天の川銀河の中にある1つの連なったガス雲のサイズに相当する。つまり、UDF12で発見した131億~134億年前の銀河は、天の川銀河にみられる1つのガス雲のようなものともいえよう。ヒミコよりも昔の宇宙においてありふれた銀河というのは、このように極端に小さい姿をしていたのである。この他にもUDF12からはいくつも発見があったが、ここで紹介した結果は、UDF12プロジェクトの中で、私たち日本のグループが主導して出したものだ。

*1 手前に天の川銀河の星やガスが少なく、遠方宇宙を見るのに適した天域。連載第2回で登場したSDFやSXDFと同じような天域。

UDF12プロジェクトで得られた、人類史上最高の感度を実現した近赤外線画像(カラー合成画像)。色の付いたダイヤモンド印がUDF12で見つかった131億~134億年前の宇宙にある7つの銀河の位置。上側の7つの白黒画像が、これら7つの銀河の拡大画像。 (画像:NASA, ESA, R. Ellis (Caltech), and the UDF 2012 Team
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