ビッグバンで宇宙が生まれたばかりの頃は、水素やヘリウムといった軽元素のガス(原始ガス)しかなく、重元素は存在していなかった。その後、宇宙で星が生まれると、星の内部で水素やヘリウムなどの軽元素が核融合反応を起こし、炭素や窒素、酸素といった重元素に変化していく。星の中でも質量が大きい星(大質量星)は超新星爆発を起こし、重元素ガスを宇宙空間にまき散らす。そして、ダスト(炭素や酸素、ケイ素などの重元素からなる固体微粒子)が作られる。宇宙空間を漂うようになったダストは、周囲にある大質量星から出される紫外線によって温められる。この温まったダストは、電波などで捉えることができる。アルマ望遠鏡の観測データを確認したところ、ヒミコにはこのような電波が全く見つからなかったのである。ダストが出す電波ばかりでなく、炭素ガスが発する電波すらも見あたらなかった*3。ダストや炭素ガスから発せられるはずの電波が無いということは、ヒミコを構成する物質は、原始ガスに近い可能性がある。仮にそうならば、ヒミコはまさに形成中の原始銀河かもしれない。これは面白い。というのも、このような原始銀河はいまだ見つかっていないからだ。あらゆる種類の天体の始まりが、原始銀河の中で起こっていると考えられるため、その1例でも見つけられれば重要な発見になる。このように、ヒミコからの電波がアルマ望遠鏡でも検出できなかった、という観測事実を見つめ直した結果、ヒミコの中の物質が原始ガスに近い性質を持っているというエキサイティングな可能性が出てきたのである。

*3 その後、2015年にヒミコをアルマ望遠鏡でもう一度観測し、感度がさらに2~3倍高いデータを手に入れた。しかし、このデータでも、ヒミコにダストや炭素ガスが発する電波が見えなかった。

 ヒミコが原始ガスに近い物質からできている場合は、大質量星がたくさん作られるはずで、それに伴って強いヘリウム輝線が出てくることが予想される。私たちは、デンマークの研究者と協力して、ヨーロッパの超大型望遠鏡VLTを使い、ヒミコを可視光と近赤外線で分光する研究を行った。エックス・シューター(X-Shooter)と呼ばれる、高い感度の分光が行える装置で、10時間にわたる長時間観測を行った。しかし結果は、これまでのケック望遠鏡で見つかっているライマンアルファ輝線(連載第5回参照)を再確認できただけだった。ヘリウム輝線をはじめとした、それ以外のシグナルは全く検出されなかったのである。

 その後2015年に、ヨーロッパのグループがヒミコに似た天体を発見した、というニュースが飛び込んできた。CR7とMASOSAと名付けられた130億年前の宇宙にあって、明るさも大きさもヒミコにそっくりの天体である。これらの天体の発見は、第2、第3のヒミコが存在していたことを意味する*4

 面白いことに、このグループがX-Shooterで観測を行ったところ、CR7からも、炭素などの重元素の輝線が見られなかった。その上、ヘリウム輝線が検出されたのである。このことからCR7を構成する物質に原始ガスが含まれている可能性がある。一方で、最近の理論研究からは、CR7が大質量ブラックホールを持つ銀河かもしれないという指摘もあって、まだ結論は得られていない。いずれにしても、ヒミコとそれをめぐる研究が、私たちのグループにとどまらず世界的な広がりを見せている。読者の皆さんには、今後世界で発表される研究結果に注目していてほしい。

*4 実はCR7とMASOSAの発見に使われたデータは、私たちが第2のヒミコを探すために取ったすばる望遠鏡Suprime-Camのデータだった。観測から1年半後に世界に公開されたデータをヨーロッパのグループが解析して、この発見に導いた。データの質が不十分と考えてしっかりとデータ解析をしていなかった私たちは完全に不覚を取った。しかし、限られた人手で観測から解析、論文執筆まで行うのは非常に困難である。私たちは、アルマ望遠鏡の観測をはじめ様々なことで手一杯になっていたため、自分たちだけですべてを行うことができなかったのである。

大内 正己(おおうち まさみ)

1976年、東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。アメリカ宇宙望遠鏡科学研究所ハッブル・フェロー、カーネギー天文台カーネギー・フェローを経て、現在、東京大学宇宙線研究所准教授。東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の科学研究員を併任。研究テーマは、宇宙史初期、銀河形成、宇宙の大規模構造、観測的宇宙論。平成19年度日本天文学会研究奨励賞、平成26年度文部科学大臣表彰若手科学者賞などを受賞。平成25年にBeatrice M. Tinsley Scholarに選出。著書に『宇宙の果てはどうなっているのか? ~謎の古代天体「ヒミコ」に挑む』(宝島社)や『宇宙』(小学館の図鑑NEO)などがある。

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