私は共同研究者と議論を繰り返して、ヒミコの正体について五つの可能性を考えた。

 (1) 一つの巨大な銀河
 (2) 巨大ブラックホールに温められたプラズマガス雲
 (3) 衝突・合体中の銀河
 (4) コールドアクリーションと呼ばれる宇宙大規模構造から降り注ぐガス雲
 (5) 超新星爆発で温められたガスが銀河の外へ流れ出る銀河風

 このうちどれが正しいかを明らかにするには、観測的な手がかりを増さなくてはならない。

 ちょうどこの頃、ドイツの著名な電波天文学者(ここでは仮にA博士と呼ぶ)からメールが届いた。メールの内容は大雑把にいって次のようなものだった。「ヒミコは大変面白い天体なので、ヨーロッパのミリ波電波天文学研究所(IRAM)にある電波望遠鏡で観測したい。ヒミコの詳しい性質を教えてもらえないか?」 実は、私たちが出版したヒミコの論文に、電波望遠鏡による観測の有用性、さらには(次世代電波望遠鏡である)アルマ望遠鏡での観測への展望について記述していた。しかし、アルマ望遠鏡ではなくIRAMで観測することは考えていなかった。そのため、「私たちはアルマ望遠鏡による観測を目指している。しかし、IRAMで観測する予定はないので、協力したい」と回答した。ヒミコの性質を含めてIRAM観測に必要な情報をすべてA博士に送り、A博士が研究代表者を務める観測提案書の作成に協力した。やがてIRAMでヒミコを観測することが認められた。その後、A博士は私に研究会への招待状を送ってきた。「ドイツのリングバーグ城で行われる研究会で招待講演をお願いしたい」

 2009年11月、リングバーグ城。ドイツ・バイエルン地方の深い森の中、人気のない山の上に巨大な城がそびえ立つ。この時は2度目の訪問だったが、リングバーグ城に来るといつも不思議な気分になる。なんといっても最寄りの町まで歩いて行けない距離なので、研究会の参加者は一日中城の中で顔を合わせることになる。ここで旧知の研究者との再会、新顔の研究者との出会いがある。別棟の会議場で午前と午後のセッションが終わると出席者はダイニングホールに行き、好きなテーブルで夕食をとる。夕食が終わるとサロンに移動してビールやワインを片手に会話を楽しむ。最新の研究結果から、各国の研究情勢、国際政治と経済、さらには天文業界のゴシップまで様々な話に花が咲く。

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リングバーグ城の外観(左)とダイニングホール(右)。(写真:MAX-PLANCK-GESELLSCHAFT, MÜNCHEN[左]、Henrik Spoon[右])

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