エジプト学界の反応は?

 論文がネイチャーに発表されるやいなや、世界中の専門家たちがコメントを出した。

 エジプト考古大臣だったザヒ・ハワス博士は、「空間という単語が、慎重に使われているとは思えない。大ピラミッドには空間はたくさんある」と発見に対して否定的な意見を述べた。ピラミッド研究の第一人者であるマーク・レーナー博士も、「ピラミッドはチェダーチーズというよりスイスチーズだ」という独特の表現で、この新しい発見に疑問を呈している。

 ギザ台地のデータを集め、そのデジタル化を進めているハーバード大学のピーター・マニュアリアン教授は、「その重要性についてはまだ議論の余地があります。空間の形ですらはっきりとはわかっていません」と慎重なコメントを出した。

 エジプト学に関する様々な著作を出しているイギリスのエイダン・ドドソン博士は、空間の存在は認めつつも「そこに隠された埋葬室がある可能性はゼロです。それは別の『重量拡散の間』かもしれません」と述べている。その見解に対して、独立研究者としてピラミッド研究を行っているコリン・リーダーは「大回廊のための『重量拡散の間』にしては離れすぎているのではないか」という疑問を投げかけている。

 これらのコメントのなかで注目すべきは、ハワス博士とレーナー博士のものだろう。彼らが述べているのは、ピラミッド内部には充填材を入れる場所があり、それが今回検出されたのではないかという推測である。実際、彼らの最新の著作である『Giza and the Pyramids(ギザとピラミッド)』の後書きにも、スキャン・ピラミッド計画の調査に対して同じような記述がある。そこには、私のチームが3Dモデル化したクフ王の北東の角にある「洞穴」や「窪み」の話が紹介され、ピラミッドには充填材を入れる場所が多々あるのだろうという私たちの解釈が紹介されている。

クフ王の「洞穴」や「窪み」の立面画像。ラング社開発の“PEAKIT”画像処理による表示。(© 2016 Giza 3D Survey)
[画像をタップでギャラリー表示]

 彼らのコメントは、現場をよく知る考古学者であれば、誰もが考え得ることだ。前述したように、実際、私もそのように思っていた。しかし、森島先生と髙﨑先生によれば、その可能性は極めて低いのである。検出された場所は文字通り「空間」であって、充填材が入っている場所ではないのだろう。

本当の王の間? あるいは重量拡散の空間?

 現在、大ピラミッド内部には3つの「部屋」が確認されている。下から「地下の間」「女王の間」「王の間(玄室)」である。通路としては「下降通路」「上昇通路」「水平通路」「大回廊」の4つが発見されている。ほかには、やぐら状に建てられた5つの「重量拡散の間」や、「大回廊」から「下降通路」をつなぐ「竪坑」、「女王の間」と「王の間」からそれぞれ北と南に向かって伸びる「通気孔」と呼ばれる2つの小さな四角く長い穴などが確認されている。

ピラミッド内部にある既知の空間。(河江肖剰著『河江肖剰の最新ピラミッド入門』より図を再構成))
[画像をタップでギャラリー表示]

 ピラミッド内部のこれらの空間は最初からすべて見つかったわけではない。17世紀半ばに最初の科学的測量を行ったジョン・グリーヴズの立面図には、「重量拡散の間」や「通気孔」は記されていない。それらは18世紀後半から19世紀前半に発見されたものだ。

 そのため、今回の発見は実に100年以上ぶりの新しい空間となる。いったいこの空間はなんだろう? 現時点ではまだ推測の域を出ないが、いくつかの可能性と、この発見の考古学的意義を考えてみよう。

おすすめ関連書籍

河江肖剰の最新ピラミッド入門

新進気鋭の考古学者・河江肖剰氏が紹介する「新しい古代エジプトの姿」。ピラミッドの基本から、ドローン計測など先端技術を駆使した研究の成果まで、写真と図でやさしく解説したピラミッド入門書です。ピラミッド内部の謎の空間にも言及しています。

定価:本体1,800円+税

この連載の前回の
記事を見る