第17回 「巨大空間」の新発見に議論沸騰、その正体は

今後の調査の行方

 今回の発表でもう一つ重要な点は、スキャン・ピラミッド計画チームが用いた最先端技術「ミューオングラフィ」の有効性が示されたことだ。同チームは2016年、ダフシュールの屈折ピラミッドで、すでに見つかっていた空間をミューオンで検出できるかどうかの試験を行い、成功している。その段階で実用性については実証済みだったが、今回、その有益さをはっきりと世界に印象づけたのではないだろうか。

 このように、スキャン・ピラミッド計画はさまざまな意味で注目すべきプロジェクトである。だが一つ残念な点は、彼らがチームに考古学者を入れず、科学者のみで調査を行っていることだ。

 考古学における異分野融合プロジェクトでは、往々にして、データ取得はその道の専門家が行い、データ解釈は考古学者が行うというスタンスを取っている。そのため、両者の間で活発な議論が交わされることが少ない。その結果、せっかく取得したデータを考古学者が使えない、理解できない、といったケースが多々ある。今回はそれに輪をかけて、最初から考古学者が参加していないため、このプロジェクトの考古学的な意義が不明瞭だった。さらに「ピラミッド」という大きな主題であったため、発表の方法に対する批判を含め、さまざまな思念も入り乱れた。

 こういった騒乱を、私たち現場の人間は「ファラオの呪い」と呼んでいる。1922年のツタンカーメン王墓の発見も同様だが、それは古代の呪いなどではなく、実は現代社会に渦巻くものなのだ。呪いを避けるためには、やはり何よりも、科学的なアプローチに準じるほかはないのである。

 今回は『ネイチャー』に論文が発表されたため、科学者であれ考古学者であれ、すべての関係者が議論を交わすことができる。それをベースに、本来あるべき異分野融合プロジェクトをさらに推進してほしいと切に願う。

おすすめ関連書籍

河江肖剰の最新ピラミッド入門

新進気鋭の考古学者・河江肖剰氏が紹介する「新しい古代エジプトの姿」。ピラミッドの基本から、ドローン計測など先端技術を駆使した研究の成果まで、写真と図でやさしく解説したピラミッド入門書です。ピラミッド内部の謎の空間にも言及しています。

定価:本体1,800円+税

河江 肖剰(かわえ ゆきのり)

1972年、兵庫県生まれ。1992年から2008年までカイロ在住。エジプトのカイロ・アメリカン大学エジプト学科卒業。2012年、名古屋大学で歴史学の博士号を取得。現在、名古屋大学大学院 文学研究科附属 人類文化遺産テクスト学研究センター共同研究員。米国古代エジプト調査協会(Ancient Egypt Research Associates, Inc.)調査メンバー。ピラミッド研究の第一人者マーク・レーナー博士のチームに加わり、ギザでの発掘調査に10年以上にわたって従事。人文科学と自然科学の融合を目指した新しいアプローチによって、ピラミッドの構造を調査する、産学共同プロジェクトGiza 3D Surveyを推進中。米ナショナル ジオグラフィック協会が支援する、2016年エマージング・エクスプローラー。著書に『ピラミッド・タウンを発掘する』(新潮社)『河江肖剰の最新ピラミッド入門』(日経ナショナル ジオグラフィック社)がある。趣味は古武道、CQC(近接格闘術)、ブラジリアン柔術。