第5回 3Dモデル生成、舞台裏の奮闘

「君が、クフ王のピラミッドに登った話と、そこでダッソー・システムズ(註:フランス最大のソフトウェア会社。ウーダン氏のスポンサー)についてツイートしているのを見つけた。……知っての通り、私は13年以上にわたってクフ王のピラミッドについて調べている。……是非、君たちが持っているオリジナル映像を見せて欲しい」

 さらに、彼は、自分が考えるクフ王の「洞穴」の本来の機能をCG化した映像を送ってきて、こう言ってきた。

「こちらは映像や画像を送ったので、君の方からの(映像の貸し出しについての)ポジティブな答えを期待している」

「世界ふしぎ発見!」の撮影で大ピラミッドに登った話はツイートしたが、彼やダッソー・システムズが、ピラミッドに関する発信を日本語までチェックしているのは驚いた。しかし、いずれにせよ、彼が送ってきたCG映像や画像は、別に私が求めたわけでもないし、それらはすでにYouTubeにもアップされており、見たこともあった。

 さらに私が興味あるのは、仮説をイメージ化したCGなどではなく、あくまで現場の生の情報であったため、彼のように、自分の説ありきという姿勢で証拠を集めるアプローチには、正直、違和感を覚えていた。

 そこで、私たちの目的は、誰もが使え、アクセスできる「学術データ」を構築することなので、それができたときに改めて議論しようと返事を出した。

先に発表しなければ!

 しかし、実はそのとき、私が警戒したのは、ウーダン氏とダッソー・システムズが、映像を使って、独自に3Dモデルを生成することだった。彼らはすでに「窪み」と「洞穴」に登っており、映像も撮っている。今回、TBSの映像を欲したのは、自分たちの映像が、暗くて、よく見えない箇所があるからだと言う。しかし仮説のCG化にしか興味がない彼らは、現場をありのままに3Dモデルで再現するというアイデアは浮かばなかったようだ。

 だが、少し調べれば、私たちが行おうとしていることに気づくかもしれない。そうすると、ダッソー・システムズという巨大な複合企業の力をもってすれば、あっというまに3Dモデルはできそうである。彼らが学術的なデータとして公開するのであれば、一番にデータを作り上げた栄誉はなくなるが、学術的には問題はない。しかし、これまでの方法を見ていると、自分たちに都合のいいデータだけを「内部螺旋傾斜路」説の裏づけとして使うように思われた。

 となると、やはり最初に、こちら側で3Dモデルを生成し、実測図を完成させ、国際会議での発表や学術誌への投稿など、データを公の場で発表する必要があった。

 私たちは、早々にデータを完成させなければならないという強い焦りを感じ始めていた。

クフ王の「窪み」と「洞穴」の3D化に取り組む安室喜弘先生と大学院生の松下亮介さん。(写真提供:金谷一朗)
クフ王の「窪み」と「洞穴」の3D化に取り組む安室喜弘先生と大学院生の松下亮介さん。(写真提供:金谷一朗)
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つづく

河江 肖剰(かわえ ゆきのり)

1972年、兵庫県生まれ。1992年から2008年までカイロ在住。エジプトのカイロ・アメリカン大学エジプト学科卒業。2012年、名古屋大学で歴史学の博士号を取得。現在、名古屋大学大学院 文学研究科附属 人類文化遺産テクスト学研究センター共同研究員。米国古代エジプト調査協会(Ancient Egypt Research Associates, Inc.)調査メンバー。ピラミッド研究の第一人者マーク・レーナー博士のチームに加わり、ギザでの発掘調査に10年以上にわたって従事。人文科学と自然科学の融合を目指した新しいアプローチによって、ピラミッドの構造を調査する、産学共同プロジェクトGiza 3D Surveyを推進中。米ナショナル ジオグラフィック協会が支援する、2016年エマージング・エクスプローラー。著書に『ピラミッド・タウンを発掘する』(新潮社)『河江肖剰の最新ピラミッド入門』(日経ナショナル ジオグラフィック社)がある。趣味は古武道、CQC(近接格闘術)、ブラジリアン柔術。