第13回 語呂合わせで生まれたエジプトの神々
ピラミッド・テキスト
先日、絶版になっていた『筑摩世界文学大系1 古代オリエント集』の中から、古代エジプトの章だけを抜き出した『エジプト神話集成』(ちくま学芸文庫)が刊行された。抜粋といっても700ページ以上の大著である。こういった内容は実際なかなか売れるものではないかもしれないが、数千年前の神話や物語が日本語で読めるのは貴重だ。そして、読むと、不思議に、理屈なしに、心に残ることがある。
私が子供のころに読んだエジプトの神話や物語は、「運命の王子」、「難破した水夫」、「ホルス神とセト神の争い」などだった。なかでも好きだったのは、影絵作家の藤城清治さんのイラストがついた「運命の王子」だった。ワニかヘビか犬に殺されると予言された王子が、運命にあらがう話だが、物語が書かれたパピルスの最後の部分が失われているため、エンディングが分からないという少しいわくつきのものだ。
エジプトに住むようになり、初めて実際にエジプト最古の神話に触れる機会があった。それはピラミッド内部の壁に刻まれている「ピラミッド・テキスト」と呼ばれている神話だった。
人類最古の神話はどこで発見されたか
ピラミッド・テキストは、1880年に、ギザから南に30キロ程に位置するエジプト最大のネクロポリス(「死者の町」を意味するギリシャ語。大規模な墓地を指す)であるサッカラで見つかった。現存する最古のものは、ウナス王のピラミッド内部からのものである。ウナスのピラミッドはギザの三大ピラミッドの時代から120年程たった第5王朝末期のものである。