第2回 マーク・レーナー博士との出会い

 エジプトでピラミッドが最も密集して建てられているのは、カイロ近郊のギザからダフシュールまでの南北25キロほどに広がる「メンフィス・ネクロポリス地区」である。ここは世界遺産に登録されており、古代エジプトの時代区分でいう古王国時代(紀元前2543-2120年頃)に、大小様々なピラミッドが70基以上造営された。

 この時代の研究をしている世界的に高名なエジプト考古学者が3人いる。1人目は、クフ王の父親であるスネフェル王が造営した赤ピラミッドと屈折ピラミッドが立つダフシュールの研究を行っているドイツのライナー・シュタデルマン教授。2人目は、第5王朝時代(紀元前2435-2306年頃)のピラミッド群が立ち並ぶアブシールで長年にわたって調査を行っているチェコのミロスラフ・ベルナー教授。そして3人目が、三大ピラミッドが立つギザ台地で発掘調査を行っているアメリカ人考古学者マーク・レーナー博士である。

マーク・レーナー博士。(写真提供:河江肖剰)
[画像のクリックで拡大表示]

 それぞれが個性的な経歴を持ち、数多くの考古学的に重要な発見をし、啓蒙的な論文や報告書を書いているが、他の2人と比べても、レーナーの経歴は極めてユニークだった。実は、彼はもともとアメリカのニューエイジ運動の影響を受けた研究者だったのである。

 1973年、レーナーは「眠れる予言者」とうたわれたエドガー・ケイシーという心霊治療家のリーディング(催眠状態で語る内容)を信じて、1万2000年前に栄えたという超古代文明アトランティスの存在を証明するためにエジプトにやって来た。しかし、そこで見つけたのは「神々の足跡」などではなく、まぎれもない「人々の足跡」だった。そのため、彼はケイシーのリーディングは内的世界の話であり、現実世界のことではないと考え、そこから現場を重要視する実践的な考古学者へと180度方向転換する。そして、以後40年以上にわたり、ギザ台地の発掘調査に力を尽くすことになったのである。

『河江肖剰の最新ピラミッド入門』

本連載が大幅加筆を経て本になりました!
新進気鋭の考古学者が紹介する、
誰も知らなかった「新しい古代エジプトの姿」。
写真や図版も豊富に収録!

ナショジオストア アマゾン