第1回 ピラミッドの発掘調査への長い道のり

 ガイド時代に基礎知識を身につけていたことに加え、一心不乱に勉強した甲斐もあったのか、在学中にエジプト学専攻の学生のなかで最も優秀な学生に贈られるアハメッド・ファクリ賞(Ahmed Fakry Award)や、学部の優秀な学生に贈られる人文社会科学賞(Humanities Social Science honor)を受賞することができた。お世話になっていた中野ご夫妻に、少しでも勉強の成果を示すことができて、ほっとしたものである。

レーナー博士との出会い

 大学での勉強は充実していたが、ひとつ不満があった。それは、発掘の実地授業がなかったことである。私の専攻はエジプト学だったが、学んだことは、ヒエログリフなどの古代語、古代エジプトの歴史や社会、芸術、建築であり、考古学の授業はなかったのである。

 エジプト学と考古学は似て非なるものである。重なるところも多分にあるが、エジプト学は基本的に歴史学であり、過去の史料を検証し、解釈する。それに対して、考古学は、発掘や測量調査を通じて、まず史料を生み出す学問と言える。

 そこで学部の4年生になったとき、自分で研究テーマを決めて単位を取得できる自主研究(independent study)の制度を利用して、発掘調査チームに参加しようと考えた。AUCでも、歴代のファラオが眠る「王家の谷」のなかで最大の墓であるラメセス2世の息子たちの複合墓を発掘していたが、私はやはりピラミッドと関わる発掘に参加したかった。しかし当然ながら、知識も技術もない学生が学外の発掘隊に参加するのは容易なことではなかった。

 そんなとき、好機が訪れた。中野ご夫妻とガイドの先輩であった紺野文彰さんが、毎月、最前線で活躍するエジプト考古学者たちを招いて講演会を開いていたのだが、そこにピラミッド研究の第一人者であるアメリカ人考古学者マーク・レーナー博士が来ることになったのである。

エジプトのギザ台地で調査する筆者。(写真提供:河江肖剰)
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つづく

河江 肖剰(かわえ ゆきのり)

1972年、兵庫県生まれ。1992年から2008年までカイロ在住。エジプトのカイロ・アメリカン大学エジプト学科卒業。2012年、名古屋大学で歴史学の博士号を取得。現在、名古屋大学大学院 文学研究科附属 人類文化遺産テクスト学研究センター共同研究員。米国古代エジプト調査協会(Ancient Egypt Research Associates, Inc.)調査メンバー。ピラミッド研究の第一人者マーク・レーナー博士のチームに加わり、ギザでの発掘調査に10年以上にわたって従事。人文科学と自然科学の融合を目指した新しいアプローチによって、ピラミッドの構造を調査する、産学共同プロジェクトGiza 3D Surveyを推進中。米ナショナル ジオグラフィック協会が支援する、2016年エマージング・エクスプローラー。著書に『ピラミッド・タウンを発掘する』(新潮社)『河江肖剰の最新ピラミッド入門』(日経ナショナル ジオグラフィック社)がある。趣味は古武道、CQC(近接格闘術)、ブラジリアン柔術。