現在、観光客が大ピラミッドを見学するには、北側のゲートから近づくのが一般的である。80エジプト・ポンド(約540円)のチケット代を払い、空港に入るようにX線で荷物を検査し、セキュリティーを抜けると、大ピラミッドの北面が見えてくる。

 ピラミッドの正面まで歩き、その巨大な建造物を見上げると、多くの観光客はカメラを構えて撮影しようとするが、かなりの広角レンズではない限り、全ては収まりきらない。

 あまりに大きいためか、あるいはカメラに夢中になってか、ほとんどの人は、この北面に見える「微妙なずれ」に気づかない。そのずれとは、ピラミッドの入り口が中心軸上にないことである。東に7.2メートルほどずれているのだ。ほぼ中心軸に位置しているのは、9世紀の太守アル=マアムーンが開けた盗掘用の穴であり、現在はそこから中に入ることができる。

大ピラミッドの北面。(写真提供:河江肖剰)
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 中心軸にないのは入り口だけではない。ピラミッド内部の全ての構造が東側にずれている。

 このずれについて、もっとも刺激的な説を唱えたのは、1980年代、フランスの建築士ジャン=パトリス・ゴワダンとジル・ドルミオンである。

 彼らは、ピラミッド内部の部屋や通路が全て東側に位置していることから、西側に発見されていない未知の部屋や空間があるのではないかと考えた(このことについては、 Webナショジオの第1回目にも書いた)。

大ピラミッドに見られる変則性

 ゴワダンとドルミオンは、西側に空間があるという以外にも、別の興味深い考察をしている。彼らは、大ピラミッドには、いくつもの奇妙な建築的な変則性があると指摘した。

 例えば、ピラミッドの北面に露出している「切妻構造」である。これはクフ王の時代に生み出された画期的な建築方法で、これによって上からの重量を分散することができるため、ピラミッドのような巨大建造物の内部にも部屋をつくることが可能になった。

 だが不思議なことに、ピラミッド北面にある画期的な切妻構造の真下には空間が見えない。そこから4.2メートルも下に、下降通路の入り口が口を開けているばかりだ。いったいなぜ切妻構造が一番効果を発揮する位置に空間がないのだろう?

 次に、ピラミッド内部にある大回廊である。これはその存在自体が変則的だ。長さ47.84メートル、高さ8.6メートルの天井をもつ壮大な空間であり、天井に向かうにつれてその幅が狭くなる「持ち送り構造」でつくられている。この構造は父王スネフェルの時代に発明されたもので、上からの重量が分散される。つまり、これもピラミッド内部に空間を設けるために生み出された建築構造である。なぜこのような巨大な通路が必要なのだろう?

大ピラミッドの大回廊。上へ向かって狭くなる「持ち送り構造」がわかる。(写真提供:河江肖剰)
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 さらに、この大回廊の側壁の基礎部には、等間隔に開けられた奇妙な穴がある。穴には何かが用いられた痕跡、あるいは何かを用いるために削られた痕跡がある。加えて、側壁のちょうど半分くらいの高さに、不思議な溝がずっと続いている。一体これらは何のためにつくられたのだろう?

 大回廊を通り抜け、さらに奥へ入っていくと、今度は花崗岩でつくられた玄室に到着する。玄室の天井はフラットだが、その上に重量拡散の間と呼ばれる5段の低い空間が存在することが分かっており、一番上が切妻構造になっている。ここで不思議なのは、玄室の上に直接切妻構造を設けず、なぜ、このようなやぐらに似た空間をつくる必要があったのかという点だ。

玄室の上に設けられた「重量拡散の間」の一番上の間。(写真提供:河江肖剰)
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